072.コンプレックス(1)


 神さまは日がな一日、日光浴を楽しむ。庭で唯一開けた場所のど真ん中に大きなロッキングチェアーを置き、そこで寒くなるまで揺れているのが日課だった。というか、それ以外にすることがなかった。

「……ぼくはわりと、この過ごし方が好きだったんだが」

「いえいえ、たまには刺激も必要でしょう。──やあ、マキちゃん。今日も元気だねえ」

「こんにちは、運び屋さん」

 草木の生い茂る中から小柄な少女が飛び出す。運び屋の姿を認めると、駆け寄ってきた。ボブカットにした茶髪が日差しを受け、快活な表情に彩りを添える。

「屋敷は見つかった?」

「それが行っても行っても木ばっかりで。あ、でもでも、こないだ小屋を見つけたんですよ」

「小屋?小屋なんてここにあったんですか、神さま」

「ぼくも知らなかった」

「倉庫じゃないの?」

「でも運び屋さん、倉庫はレンガ造りだって言ってましたよね。その小屋は木造なんですよ」

「木造?へえ、よくこの庭で残ってたねえ」

「でしょう?そこには色々あって、椅子とかテーブルも見つけちゃいました。ついでに寝袋も」

「それなら、これからは葉っぱを布団にする必要もないね。じゃあ、次に来た時はランプを贈呈しよう」

「ありがとうございます!」

 マキは元気良く頭を下げ、「小屋の掃除をしてくる」と言ってその場を離れた。

 再び、茂みをかきわけかきわけ消えていく姿を見送りながら、神さまはゆったりと椅子を揺らす。

「お前が来たら聞こうと思っていたんだが」

「はい、何でしょう」

「彼女は何をしにここへ来たんだろうか」

「さあ。僕が連れて来た子ではないので、さっぱり」

「気付いたらいた」

「では門を開けて入ったんでしょう。ここの塀は簡単には越えられるものではありませんし」

「門を開けて入ったのなら、仕方がないか」

「そもそも、ここの門には鍵なんてあってないようなものですよ、神さま」

「そうだったのか?出て行けない人間が多いから、てっきり頑丈な鍵があると思ったんだが」

 鍵には鍵ですけどね、と前置きをつけて説明する。

 すっかり錆びた門は本来の色がわからなくなるほど錆に覆われて赤く、触れれば簡単に表層が崩れていく。それが門としての役目を果たせているのは、頑丈な蔦が幾重にも門を覆っているからだった。鍵もあるにはあるのだが、鉄棒をスライドさせてかけるだけの簡単なものである。

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