071.じゃんけん(3)
リョウはじっとりとした目で神さまを見る。
「……お前」
「違うのか?」
「そりゃ、神さまの首なんて欲しい人には垂涎ものでしょう。値段なんかつけられませんよ」
「ということだ」
「お前ら一発ずつ殴っていいか?」
「ここは暴力禁止だ。外でなら構わないが、まだ出られないだろう」
「……もういい。お前らとまともになんか話せねえ。芋の決着つけるぞ」
じゃんけん、と運び屋が言い、ぽい、という掛け声と共に今度は三人分のパーが出た。
「…………もういやだ」
「だから言っただろう。等分にした方が賢明だと」
「大体、神さまなんだから未来の一つぐらいわかるだろ!?それで勝つとか負けるとかしてみろよ!」
「わあ、嫌だ。八つ当たりですよ、神さま」
「おお」
「感心するな。むかつくから」
神さまは少しだけ首を傾げて答えた。
「ぼくは世界に飽きた。あまりに大きくなりすぎたから。そんな世界の未来を見ても、ぼくはきっと失望しかしないだろう」
「じゃんけんぐらいで失望するか普通……」
「些細なものだが、これも勝負だ。勝者には誇りが、敗者には屈辱が待っている。この二つは、世界を動かす大きな要因の一つだと思わないか?世界が動けば、未来も動く」
だから、と淡々と続けた。
「ぼくは未来を見ない。……というか、見てもお前たちはその未来を裏切りそうな気がする」
「……褒めてんの?」
「嬉しいなあ」
「裏切るのをわかっていて見るよりは、何もわからない方が楽しいということだけは最近わかってきた。……それにしても、これほどあいこが続くなら、いっそ未来の一つでも見た方がいいかとさえ思うんだが」
「あっさり意志を折るなよ、たかが芋一つで」
「たかが、って言った?」
「言ったな」
「言いましたね、神さま」
「うむ。ということは、ぼくの案に賛成したということだな」
「どういう回路を通れば、そういう結論になる!?」
「自分が言った言葉の説明を他人に求めるのか?」
「やだなあ、神さま。他人じゃなくて神さまにでしょう。とすると、信仰心の塊のような人間の話みたいですが、リョウくんに果たしてそれがあるかどうか」
「……お前らあれだろ、友達いねえだろ」
「生まれてこのかた、友達というものをぼくは知らない」
「僕の友達はほとんど死んじゃったし。……あれ、どこ行くの?じゃんけんは?」
「もういい。他にねえか探してくる」
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