064.ペット(1)


「原則、ペットは禁止なんだけどね」

 イードはそう呟きながら、ポケットに忍ばせていたパンを草むらに向けて放り投げる。すると、草むらが大きく動いたかと思いきや、そこから茶色い仔犬が顔を覗かせた。

 仔犬はパンの匂いと、イードとを比べてから安全と判断したのか、草むらから出てパンを食べ始める。あまりの食べっぷりの良さにイードは微笑ましいものを感じたが、この様子では、今度から食事の量を増やした方がいいのかもしれない。

 偶然、学都に迷い込んだところを見つけてから二週間、イードは裏庭の片隅で仔犬を飼っていた。

 だが、飼う、という表現が正しいのかは不明である。とりあえず一日二回、朝食と昼食のパンを少し失敬して仔犬に与えているが、それ以外は仔犬の自由にさせていた。どこかで別の誰かに餌を貰っているのかもしれないし、また、別の誰かが仔犬を世話しているかもしれない。

 餌付けだろ、というのは友人のサジェインの言葉だが、イードはあえて「飼う」という表現にこだわった。

実家住まいだった時、決して、ペットを飼うのを反対されたわけではないが、イードも積極的に何かを飼いたいと思ったことはなかった。だが、迷い込んだ仔犬が、おっかなびっくりイードを見つめては、餌をねだるように鳴くのを見た時、何となく嬉しくなったのである。

 媚を売ってすり寄ることはせず、だからといって無闇な警戒心をぶつけたりもしない。仔犬は人間よりも、生きるということに純粋な生き物だった。

──その点、お前は生きるのに消極的だよなあ。

 イードが初めて仔犬をサジェインに見せた時、仔犬とイードを見比べてそう呟いたことがある。犬と人間を比べるというのも何とも失礼な話だが、特に気分を害することもなく、「そうかもしれない」と感じた。

「だってさ」

 イードは膝を抱えてしゃがみ込み、一生懸命にパンへかぶりつく仔犬へ向かって話し始めた。

「がつがつ生きるのって、性に合わないんだよ。そうやって生きて、手に入れられるものは時間だけじゃないかな」

 どう思う?、と仔犬に聞いてみたが、パンに夢中で顔を上げる様子もない。イードは苦笑した。

「そうだよな、お前はその時間が大切なんだもんな。僕は、そういう時間が大切って思える日が来るのかよくわからない。サジェインは「いつか絶対そうなる」って思ってるみたいだけど、僕はそうならないんじゃないかと思う」

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