八月三十一日の帰還者たち

(4)


 世界各国から集められた先遣隊は国別、あるいは地域別の船に分乗して、それぞれの故郷へと戻る。穂乃花たちの船は日本へ直接乗り入れる船であり、内部では母国語が飛び交っていた。先遣隊の船では公用語として英語が用いられているため、四方八方から英語なまりの日本語が聞こえるというのは奇妙な感覚だった。
「思って、って言われてもなあ」
「……まだ不服なの?」
 友人の怪訝そうな表情に対し、穂乃花が少し唸ってから答えようとした時、機内アナウンスが流れて大気圏への突入を知らせる。
「香澄はさ、自分の本当の年齢覚えてる?」
 香澄と呼ばれた眼鏡の少女は頷いた。
「うん。穂乃花は?」
「途中で忘れちゃったんだよね、私」
「……じゃあ、今回の帰還でちゃんと調べとかないと」
 そう言ってから、香澄は思い出したように声をあげた。
「あ、でも弟がいるんだから、聞いたらどう?」
 穂乃花は苦笑しながら「面倒だなあ」と曖昧に答え、腕時計に視線を落とした。彼ら先遣隊メンバー全員に支給された時計であり、デジタル式の上半分には宇宙の、下半分には地球での時間と日付が表示されている。宇宙側の時間はワープするごとに変わるので、時計というよりも記録に近いが、地球の時間はこの時計が動き始めてから変わらず時を刻み続けている。
 今日は八月三十一日、地球時間は早朝の頃だった。
 小鳥遊穂乃花は再び窓に頭を預け、段々と大きくなっていく地球の姿を眺めた。



 かつては盛大に出迎えられていた帰還者たちも、回を重ねるごとに少なくなっていく歓迎の旗に寂しさを覚えないわけではない。何しろ、彼らにしてみればほんの数か月地上を離れていただけであり、ちょっと旅行へ行っている間に知人が随分減ったという感覚は、降り積もるごとに微かな痛みを残していく。選んだのは自分だ、と覚悟していても辛いものは辛く、自然と、家族や知人が迎えに来る帰還者たちは、そうではない帰還者たちと行動を別にするようになっていた。
 船を分けることでその慣例は達成されるので、穂乃花らの船は割と賑やかな方であるが、一方の船は静かなものだと仲良くしている女性が言っていた。彼女は前回から今回の帰還の間に、唯一の肉親を亡くしていた。
 宇宙船専用の空港に着き、ゲートをくぐって事務連絡を済ませた後は、明日まで各自自由行動となる。迎えが来ている彼らは各々、家族や友人を見つけて散って行き、香澄に手を振った穂乃花は少し離れた所で立つスーツ姿の男を認めて、つかつかと歩み寄った。

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