いつまでも




 意味のわからない答えに、勇は眉をひそめて名彦を見つめた。
「……あんた、どうしてわかったんだ」
 さて、と名彦は冷めた湯のみを持つ。
「どう申し上げればよいのか。私には、植物の声が聞こえるんです」
 勇の不審に満ちた視線に気付き、名彦は微笑して見返した。
「信じていただく必要はありません。ただ、このような人間がいるとだけ、ご理解いただければ結構」
「じゃあ……それなら、あの白木蓮のも?」
「先ほど、あらかたのことは。ただし、あれ自体はもう口を利くこともままならないようだったので、周囲のものから聞きました。冬ともあって土中に眠り、なかなか聞きづらくはありましたが、お陰でわかったこともいくつか」
 何だ、と問う勇の隣で、頼子も真っ赤な目を向けた。
「教えてください」
 名彦は持った湯飲みをことん、と置いた。
「……人には元々、よくないものを引き寄せる力があると言われています。それがどういうものかは、私にもよくわかりません。深い悲しみや怒りや嫉妬などが起因するとも言いますが、まあ、人の心には鬼が住むとも言いますから。そういうことなのでしょう」
「それが娘にもあったというのか」
「身体が健康であっても、心が健康ではないということは、そう不思議なことではありません。大切なのは均衡を保つこと。天秤が傾けば、杯はひっくり返るだけです」
 そうすると、と言い、湯飲みの縁に指を置く。
「空になった杯には、よくないものが入りやすくなる。そうすることで再び均衡は保たれますが、それは本来あってはならない均衡です。もちろん、身体にも影響が出る。……お嬢さんに何があってそうなったのかはわかりませんが、病にかかった原因はそれです」
 名彦が話すうちに、身を寄せ合っていた二人は段々と体を離し、しまいにはよそよそしい空気まで感じられるようになった。
 構わず、名彦は言う。何が原因なのかを知り、後悔するのは当事者に任せればいい。
「……お心当たりがあるようですが、私にはそれを解する義務はありません。今はただ、私の話を聞いていただければ結構です。よろしいですね?」
 二人は視線を交わし、頷いた。
「よくないものが入りやすくなるとは言いましたが、どこにでも漂っているものである一方、入ったからと言って直ちに影響をきたすほどのものは稀です。お嬢さんが病にかかってから亡くなられるまで、時間はかかっていませんね」
「それはつまり、その稀なものが娘に入っていたということですか?」

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