いつまでも




「季節を間違えた花が咲くだけで呪われたとは、いささか性急すぎる評価です。失礼ですが、ここ一年か二年の間に、ご家族のどなたかがお亡くなりになっていますね」
 二人が息を飲み込んだのがわかった。一瞬にして空気を緊張させ、忘れようと努めていた悲しみが表へ出ないよう、堪えている。
 溢れる一歩手前のコップへ、更に水を差すような真似をして申し訳ないが、と思いつつも、答えを求めたのは彼らだった。名彦にはそれに応える義務がある。
 顔を二人の方へ向け、名彦は続けた。
「……それはお嬢さんではありませんか?」
 頼子は打ちひしがれたように視線を落とし、勇は顔を赤くして激昂した。
「それはお前には関係ない!」
 大声で怒鳴ると、勢いよく立ち上がって、怒りを床にぶつけるようにして名彦の元へ歩いてくる。逃げるでもなく静かな面持ちで名彦が見ていると、すんでの所で頼子が夫の足を止めた。
「離せ!何だこいつは!人の過去を土足で荒らしやがって」
「でも、でも本当でしょう。本当のことです。忘れられるはずがないでしょう……」
 消え入りそうな声で言い、最後の方では耐え切れずに泣き崩れた。自分の足にすがって泣く頼子を、勇はやり切れない顔でしばらく見つめていたが、やがて自分も顔を歪めて屈みこみ、妻の背中を優しくなでた。
「……病気だ。それで二年前に死んだ」
 低く、小さな声で素早く言う。その言葉が自分の心を傷つけてしまわないように、細心の注意を払っているようだった。
 名彦に対しても、過去に対しても頑ななのは、壊れそうな頼子を守るべく、自分の心を堅牢であるかのように見せるためなのかもしれなかった。その中に守られているのは、頼子と同じくらい壊れた心であるにも関わらず。
 頼子の肩を抱きながら、勇は白木蓮に目を向けた。
「その前後くらいからだ。あれが冬に咲くようになったのは」
 遠い目には何が映っているのか。名彦には知るべくもない。
 勇は名彦を見ずに、問うた。
「調べたのか。それとも、妻から聞いたのか」
「冨平さんからは、何も。ただ、奇妙な白木蓮があるから一度見て欲しいとだけお聞きしました。それに、調べることはしません。私には必要のないことです」

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