第十二章 繋ぐべきもの



「得物だよ。自分が得意とするやつ。色々あるだろ」

「あまり贅沢は言えんだろう」

 言葉にするのは控えておく。この街並みや人々の顔つきで判断するに、リファムほどの品揃えがあると期待するだけ野暮というものだ。そこそこ大きな剣であればいい、と言うと、サークがカリーニンの手を引っ張って率先して歩き始めた。

「じゃあ、こっちだよ。メルケンさんの所」

 ね、と母親に同意を求めると、ジルもそうだねと言って返す。

 市場の大通りから折れて、大通りに添うようにして伸びる裏道に入る。その広さも表の半分ほどしかなく、人が二人すれ違うので精一杯だ。

 両脇に立ち並ぶ家々の陰にあって日差しはなく、怪しげな店が居を構えているものだから一瞬身構えるが、行き交う人々を見てここが生活の中心なのだと気付かされる。

 その服装などは表を歩く人々と大差ないが、店先で立ち話に興じる女性や、籠一杯に買い込んだ食物を抱えた夫を従える妻の姿は表よりも活気に満ちていた。時折聞こえる賑やかな喧騒が口許を綻ばせる。

「こっちの方が涼しいからね」

 言いながら、ジルは頭に被った外套を取った。

「表よりはいくらか過ごしやすい。だから人も元気なのさ」

「メルケンさんはその中でも一番元気だけどね」

 母親の言葉を別の意味で継いだサークの勢いは止まることを知らず、ぐいぐいとカリーニンの手を引っ張っていく。巨漢が小さな子供に手を引かれる姿は滑稽で、しのび笑う声を背中に受けながら一行は目的の店の前に立った。

 特に大きいというわけでも小さいというわけでもない。居並ぶ店と同じ構えのその店は、壁という壁にありとあらゆる武器防具類を掲げ、それでも足りぬと言わんばかりに通路にまで武器がはみ出している始末である。お陰で体の小さなサークなどはすいすいと歩けるものの、客であるカリーニンは入ることに苦労し、店先でメルケンなる店主を待つ羽目となった。

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