第十二章 繋ぐべきもの
出がけにアスの正体を言い当てられ、だからといって何をするでもないジルの行動はその場から逃げようとする気を削いだ。彼女はただアスを『時の神子』と言っただけで、それ以上のこともそれ以下のこともしなかったのである。
それから昼近くのこの時分まで歩き通しで、リファム国境付近のグラミリオンの街に着いたのだが、ジルやサーク、そして何故か付いてきたヴァークは淡々と自分達とアスらの買い物を済ませるだけで、残すは雑多な小物とカリーニンの得物のみとなっていた。
幸いというべきか、グラミリオンには『時の神子』を捕えよという公布は出ておらず、行きかう人々が彼らに不審な目を送ることもない。
ただ、前を歩くジルからアスは一時も目を離さず、そのアスの後ろを歩くヴァークもアスから一時も目を離さないという妙な膠着状態に持ち込まれた。普通に歩くジルやサークを見ていると、変に意識するのはかえって危険なのかもしれないと思わされる。
──どうしたものかね。
カリーニンとアスの間に挟まれて歩けて、サークはご機嫌そうだ。何がそんなに嬉しいのかと不思議に思いこそすれ、邪険に扱うことも出来ない。無邪気な顔は警戒心を鈍磨させる。
それに、とそれまでのジルの行動を思い返していた。
彼女は信用に足る人間だろう。
信用に理由をつける必要はない。そうするに足るだけの言葉や行動を見てきた自分を、信じるしかないのだ。
「あんたはどんな得物がいいの?」
考えふけっていたカリーニンの耳に、はつらつとしたジルの声が届く。不意に飛び込んできた言葉を鸚鵡返しに問うたカリーニンに向かって、ジルは苦笑した。
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