第十一章 その手のひらに
「すまんな、服まで借りて」
素朴な肌触りの外套を見下ろして、カリーニンはジルに向かって苦笑してみせた。だが、ジルはけらけらと笑って手を振る。
「貸すんじゃないって。あげるよ。うちにあっても邪魔だし」
おそらくは亡き夫のものなのだろうと推測をつけて、カリーニンはありがたく頂戴することにした。
服自体は他とあまり変わらぬものの、襟元がやや高く、肩で留める形の外套を着るのは初めてだった。フードもついている上に多少の水なら弾くとなれば旅にはもってこいである。アスが着るのも同じ形だが、女であることを配慮してのことかそれしかないのか、カリーニンのとは違って少しばかりの装飾が入っていた。しかし華美なものではなく、それが素朴な素材と合って綺麗に見える。
アスもこういった類の服を着たことがないのか、不思議そうに外套を持ち上げては見入っていた。
「後で返せなんて言わないからさ、安心しなよ」
ふふ、と笑って腕を組む。
「それで、これからどこに行くんだい?」
「ひとまず、俺の得物をどうにかしてから考える」
「まあ、丸腰じゃあね。街に出るの?」
「歩きながら考えるさ」
彼らを信用しないわけではない。アスが何者なのか知らず、あるいは知らないふりをしているだけかもしれないが、余計な情報を与えるのは得策ではないだろう。追撃の手が彼らにまで伸びた時、その情報が彼らにとっても、またカリーニンらにとっても命取りになる。
だが、ジルは小さく嘆息し、困ったように笑った。
「信用されてないかな、私ら」
「……すまんな」
「ま、仕方ないけどさ。でも、嫌だって言っても同行するからね」
カリーニンは目を丸くする。
「長が決めた。あんた達を街まで送るようにって」
「どうして」
あの一連の出来事を見れば追い出しはしても、街まで送るという考えには至らない。
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