第一章 二人



「壊れた器ってどうなったんだろうね」

「それがわからないんだよなあ」

 眉をひそめてページをめくる。手を素早く動かし、全てのページをめくり終えて裏表紙に辿り着いたところで、溜め息をついた。

「ほらな、ない」

「初版には書いてあるって言うよね、よく」

「本当かな、噂だろ」

 そう言いつつも、手は名残惜しそうにまたページをめくり始めていた。

 神書を知る人間なら誰でも聞いたことのある噂である。

 割れた時の器の欠片がどこへ行ったのか、今現在、人々の目に触れている神書には書かれていない。

──しかし、その存在すら怪しい神書の初版本、つまりオリジナルには割れた器のその後が書かれているというのが学者達の間で最も有力な説だ。だが、著者でさえ不明であるこの神書に、果たしてオリジナルが実在するのかというところで常に論争は絶えない。

「随分長く流れてる噂だよ。皆知ってる」

「というか、何かもう伝説じみてるよなあ」

 ぱらぱらとめくり続けて表紙に辿り着き、ライは嘆息と共に仰向けになった。

「けど、あったら良いとか思わない」

「思うよ! 俺、この本好きだし」

 弾かれたようにライは起き上がる。その顔を覗き込みながらアスは笑った。

「じゃあ予言書の次はそれだね。大きくなったら」

「俺が神官になってから?」

 目を輝かせるライに大きく頷いて返した。

「うん、そう。そしたら私が剣を使う」

 話しながら段々と気分が高揚していくのがわかった。今の自分には出来ない。けれども未来の自分なら、という期待感と、それを共に達成してくれるであろう友がここにいることが嬉しい。

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