男と女 -1

「それは***さんが悪いです」


 澄みきった夏空のような瞳にわずかな軽蔑が滲んでいて、ただでさえダメージを食らっている私の心からは、さらにHPが減った。


「お、お願いユーゴくん。もう少しお姉さんに優しくして……。じゃないともう死んじゃう」

「だって、婚約してるのに合コンに行くなんて……。どうして言ってくれなかったんですか? 知ってたら、***さんの同僚の方に幹事頼むとか、他にやりようがあったのに」


 ごもっとも。本当にごもっともすぎて、もはやぐうの音もでない。なぜあのときの私は、それを思いつかなかったのか。もしもタイムマシンがこの世にあるのなら、あのときに戻って『大好きなシャンクスと喧嘩しちゃうから、合コンなんて行っちゃだめだよ』とアドバイスを贈ってあげたい。そうすれば今日だって、美味しいご飯の写真とか、綺麗な景色の写真とか。シャンクスから、連絡がたくさんきていたかもしれないのに。


 けれど、どんなに悔やんでも、今のこの世の中にタイムマシンはまだない。他の解決策を講じるより他ないのだ。だからこそ、仕事終わりにばったり会ったユーゴくんを捕まえて、相談に乗ってもらっているわけで……。


「素直に謝ったほうがいいです。むしろ、それしかないじゃないですか」


 エイヒレの炙りを頬張りながら、ユーゴくんが言う。右手には熱燗のお猪口が握られていて、フランス人と日本人のハーフらしいユーゴくんの見た目には、些かアンバランスな組み合わせである。


「だけど……もし、許してくれなかったら……」


 言いながら、目に涙が浮かぶ。


 もし、シャンクスが許してくれなかったら。引き際がいい彼は、もう一生、私には会ってくれないかもしれない。婚約者どころか、幼なじみにも戻れなくなって。永遠に、シャンクスには会えない――。


 お酒の力も手伝って、ぼろぼろと涙が溢れてくる。


 言いすぎたと思ったのか、ユーゴくんは慌てたように、綺麗にアイロンのかかったハンカチを差し出してくれた。


「それでも、謝るしかないです。誠心誠意込めて」


 ね? と、クリアブルーの瞳を細めて、ユーゴくんは笑ってくれた。


 おしゃれなハンカチで目頭を押さえながら、小さく頷く。そうだ。謝るしかない。今の私にできることは、それしかないのだ。


「それにしても……***さんを調査してたっていうのは、少し気になりますね。お付き合いが短いならまだしも、お相手の方、***さんの幼なじみなんですよね? もしかして、結構な権力者とか?」


 ユーゴくんの鋭い指摘に、思わずギクリとする。


 しまった。喋りすぎてしまっただろうか。


 ユーゴくんには、『じつは幼なじみと婚約している』とだけ説明していた。何度か接していて、ユーゴくんのことは信頼しているけれど、シャンクスがあまりにも有名な経営者であることと、彼がシャンクスの大ファンであるからこそ、却って言うわけにはいかない。なぜなら、もし赤髪のシャンクスの婚約者が、こんな、浅はかに合コンに行ってしまうようなポンコツだとわかったら、ファンとしてはがっかりしてしまうだろう。


 それよりなにより、赤髪のシャンクスが幼なじみで婚約者だなんて、まず信じてもらえるわけがない。


「け、権力者とか、そういうわけじゃないから、身辺調査とかではないと思うんだけど……。それに、彼の性格上、こそこそと嗅ぎ回るような性格でもないっていうか……」


「でも、実際に調査してたっぽいんですよね?」

「う、うん。まァ……」

「婚約者の調査か……。ううん……。考えられるとすれば……」

「す、すれば……?」


 腕を組んで考え込んでいたユーゴくんが、閃いたようにぱっと表情を明るくした。


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