ありったけの愛に、リボンをかけて -03.09.2013- 2/2

「あいだっ、」


自室へ向かう途中、ついに足元が覚束なくなって、私は出っ張った床板につまずいた。


うー、どうしよう…


動けない…


せめてだれにも見つからないようにと、ズリズリと身体を動かして影の方に身を潜める。


困った、


どうしよう、


気持ち悪い、


立たなきゃ、


気持ち悪い、


どうしよう、


どうし、


「やっぱりこんなこったろうと思った。」


うずくまったままの私の頭上に、突然そんな言葉が落っこちてきた。


まるで膜でも張ってるかのように聞こえにくい今の私の耳では、声だけではだれなのか特定ができない。


「ほら、立てるか?」

「うー…」

「……………ダメか。よし、つかまれ。」


そう言ってその人は、私の両手首を掴んで自分の首元に回す。


途端、身体がふわりと宙に浮いた。


「しっかりつかまってろよ。」

「うう、あい…」

「大丈夫か?」

「ぎもぢわるい…」

「吐きたかったら吐け。」

「うー…もったいないからやだ…」

「ははっ、なんだそれ。」


楽しそうに笑ったその声が、なんだかとても心地がいい。


「まったく…どうしておまえは学習能力がないんだよ。毎年こうじゃねェか。」

「す、すみません…」

「あんまり無茶してくれるなよ。」

「でも、……………お頭の誕生日だから…」

「…………………。」

「無茶してでも、……………精一杯祝ってあげたいんです…」

「…………………そうか。」


そうポツリと呟く声が、ひどく穏やかだ。


やがて、ドアノブを回した音に続いて、ギィと聞きなれた悲鳴が耳に届く。


自分の匂いに占領されたそこに辿り着くと、いっきに睡魔が訪れた。


「ほら、横になれ。」

「ん…」


その人に促されるがまま、私は自分のベッドに横たわる。


いよいよ心の底から安堵して、私の思考はゼロに近付いていった。


「じゃあな、ゆっくり寝ろよ。」


そう私に声を掛けながら、その人は私の頭をひとなでして立ち上がる。


「…………………お頭に、」

「え?」


そんな私の突然の言葉に、その人はピタリと動きを止めた。


「お頭に、……………伝えてください…」

「…………………なにをだ?」


その優しげな問い掛けに、私はゆっくりと口を開く。


「いつも、ありがとうございますって…」

「…………………。」

「あなたに出会えて、私はしあわせですって…」


…………………ああ、


私、何言ってるんだろう…


恥ずかしすぎる。


だれかもわからない人に、こんなこと。


そうは思っても、お酒の力も手伝って、私の口からはつらつらとお頭への想いが溢れだす。


「お頭に出会えて、……………私の人生に光が射したんです…」

「…………………。」

「キラキラしてるお頭を見てるだけで、しあわせなんです…」


瞑ったまぶたの裏に、お頭の眩しい笑顔が映し出される。


涙が、溢れた。


「私を拾ってくれて、ありがとうって…」

「…………………。」

「…………………生まれてきてくれて、ありがとうございますって、」

「…………………。」

「そう伝えてください…」

「…………………。」


……………困るよなァ、


いきなり泣かれても…


秘密にしてたけど、実は私泣き上戸なんです…


すみません…


なんだか安心感を感じる船員Aさんに心の中でそう詫びると、その人が私の傍らにしゃがむのが分かった。


長くて暖かい指が、私の頬に伝った涙を掬う。


「…………………あァ、わかった。」

「…………………。」

「ちゃんと伝えておく…」

「……………ありがとう…」


へらりと笑ってそうお礼を言うと、ついに私は遠く意識を手放した。


「…………………おれの方こそ、…………………ありがとう…」


そんな言葉と一緒に、指先にやさしいキス。


夢の入り口で、綺麗な赤が揺れた気がした。


ありったけのに、リボンをかけて


ニヤニヤしちゃってどうしたの?シャンクス。


ん?いやァ、……………いいプレゼントもらったなと思ってな。


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