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『なにしてんだ、バカ。』

『…!!……………と、とらふぁるがーく、っ、ど、どうしてここにいるの、』

『……………たまたま通り掛かった。』

『ううっ、よかったあ…』

『……………迷ったのか。』

『うん、おトイレいったら、みちわかんなくなっちゃって、』

『バカだな。……………行くぞ。』

『うん…!』

『…………………。』

『……………あ、あのね、トラファルガーくん、』

『……………なんだ。』

『さ、さっきね、トラファルガーくんのことよんだの。』

『はァ?』

『こころのなかでね、トラファルガーくんたすけてって。』

『…………………。』

『そしたら、ほんとにトラファルガーくんきてくれた。』

『…………………。』

『トラファルガーくん、ヒーローみたい!』

『……………バカか、おまえ。』

『へへっ。』

『バカなこと言ってねェでさっさと歩け。』

『うん!』










いつだって、


一番最初に思い浮かぶのは、ローだった。


ローがいてくれたら、それでよかった。


それで、よかったのに。


ねぇ、ロー。


私、変わらなきゃダメなのかな。


ローがいなくても、頑張れるように、


強くならなきゃ、ダメなのかな。


ねぇ、ロー…










「う、ん…」


目頭がズキズキとする不快な感覚で目が覚めた。


まぶたが、水を入れたように重い。


……………うー、


眠い…


もう少し寝ててもいいかな…


今何時だろ…


薄暗いし、まだ大丈夫かな…


だれかと一緒に寝るなんて、久しぶりで気持ちいい…


いいや、もうちょっと寝ちゃおう…


………………………。


………………………。


…………………だれかって…


……………だれ。


「…!!」


いっきに覚醒した視界に入ってきたのは、だれかの綺麗な首筋。


ばくんと一回、大きく胸が高鳴る。


おっ、おおおおおっ、落ち着いて…!!


まっ、まさか私にかぎって、よ、よ、よ、……………酔った勢いなんてそんな…!!


どうしよう、どうしよう、


ぜったいローに怒られる…!!


ただでさえ今ローの機嫌が最高潮に悪いのに、こんなことが知れたらもう…!!


………………………。


あ、


…………………ここ、ローの家だった。


……………ってことは…


まさか、これって…!!


はやる気持ちを抑えながら、私は頭上にある「だれか」のカオをそおっと見上げた。


そのカオは、やっぱり予想していたとおりの人で…


「…!!」


視界に写ったのは、すやすやと寝息を立てながら眠るローの姿。


よくよく状況を整理すると、私の身体はローの腕の中にすっぽりと収まっていて、両足の上にはローの長い足が絡みつくように乗っけられていた。


ぎゃあああああああ!!


ちょっ、ちょっ、ちょっ…!!


「ロっ、ロロロロロっ、ロー…!!」


もはやパニック状態でささやかにそう叫んでみるものの、ローから聞こえてくるのは規則正しい寝息だけ。


こっ、これはまさか…!!


5年に1回あるかないかと噂される…


ローの熟睡モード…!!


そんなレア中のレアなローの姿に、私は興奮気味に(もはや変態の域)ローのカオをまじまじと見つめた。


いつも難しそうに寄っている眉は、すっかり力が抜けていて、目線だけで人を殺せそうな鋭い瞳は、威力を失ってゆるく閉じられている。


極めつけは、普段のローならぜったいに考えられない半開きの口。


そのなんともいえないかわいらしい姿に、私の胸はどうしようもなくきゅんとした。


しゃっ、写真撮りたい…!!


これはぜひとも盛大に大きくプリントアウトして、ひっそり家に飾りたい…!!


け、携帯携帯…!!


なんとか身を捩って目の前にあるバッグに手を伸ばすも、ローの体重がのしかかっているせいで届かない。


あ、あと少しなのにいいい!!


歯を食いしばりながら引きちぎれるんじゃないかというくらいに、必死に腕を伸ばした、


その時、


「……………ん…」

「!!」


ローが、眉間にしわをきゅっと寄せて、ゆっくりと目を開いた。


きょろきょろと目の球を左右に動かすと、のっそりとしたベポみたいな動きで、腕の中にいる私をじいっと見つめる。


「…………………。」

「…………………。」

「…………………。」

「……………お、おはようございます…」

「…………………。」

「…………………あ、あのー、」

「…………………。」


いまだ頭が働かない様子のローに、おそるおそるそう声を掛ける。


ああ…!!写真撮れなかった…!!


心の中で激しく後悔していると、ローが怪訝そうな視線を私に向けてきた。


「………………なんでおまえと一緒に寝てんだ。」

「し、知らないよ!私じゃないよ!だって私昨日床に寝たもん…!」

「…………………。」


記憶を辿るように考え込む仕草を見せると、ローは寝惚け眼のまま、「あァ、」と口にした。


「……………そうだ、おれが運んでやったんだった。」

「…………………。」


寝惚けていても上から目線なのが、なんともローらしい。


「そ、そうだったんだね、ごめんね…」

「…………………。」

「あ、ありがとう…」

「…………………。」

「…………………。」

「…………………。」

「あ、あの、」


頭が少しずつ覚醒してくると、昨夜のローの激怒っぷりを思い出してきた。


……………どうしよう…


やっぱり、まだ怒ってるのかな…


「あ、あのさ、ロー、」

「おまえは、」

「へ?」


詫びをいれようとした私の言葉をさえぎって、ローはぽつりと思わぬことを口にする。


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