夢、現 -01.01.2013- 2/2

「ううっ、そんなっ、うそだろ……」

「おーい、エースくーん、大丈夫かァ?」

「まっ、待ってくれ***……」

「へ? 私?」

「ずいぶんうなされてんなァ」

「イゾウとは、ううっ、かんざしプレイ……」

「なんつー夢見てんだよい、コイツは……」

「ぼく起こすー! えいっ」


 ハルタの頭突きが見事にクリーンヒットしたのと同時に、エースはがばっとその身体を起こした。


「いっでェェェェェ! はァっ、はァっ、は……あ?」

「あ、起きたァ?」


 額を抑えながら、エースはぐるりと目の玉を動かした。


 サッチ、イゾウ、マルコ、ハルタ、そして、***が心配そうに(心配そうなのは***だけ)自分を覗き込んでいる。


「エース、大丈夫? すごい汗……ぎゃっ」


 ***の腕を思いきり引っ張ると、エースはその肩をぐわんぐわんと揺らした。


「ちょっ、ちょっと、エース……!」

「おまっ、おれというものがありながら、他の男とも関係持つってどういうことだ!」

「は、はァっ?」

「そんな子に育てた覚えはありません!」

「い、いや、ちょっ、なに言ってっ」

「へェ! ***ちゃんとエースってやっぱりそういう関係だったの?」

「違いますっ」

「うるせェハルタ! おまえはなにプレイだ! 王子様か! 王子様プレイか!」

「えェ……ぼくはどっちかっていうと王様プレ」

「きゃああああ! おやめなさいハルちゃん!」

「気持ち悪ィよい、サッチ」

「***! 台湾バナナプレイなんて、おれは許さねェからな!」

「なっ、何言ってるのさっきから! そんなのするわけないでしょっ。そうですよねっ? マルコ隊長!」

「……どこでおれだって思ったのか説明しろい、***」


 ぎゃあぎゃあと騒いでいると、ついにマルコの拳骨がエースとサッチ(「なんでおれまで!」)に落ちた。


「ったく、宴の途中で主役が寝るなよい」

「う、宴?」

「おまえのバースデーパーティーしてただろうが!」

「サ、サッチ……」


 あ、あれ、そうだっけ。


 そう言われてみれば、そうだった気が……


 ……あ、いや、そういやそうだった。


 冷たい空気を目一杯吸うと、はっきりとしてくる思考。


 ラクヨウに呼ばれて甲板に出たら、みんながもう待っててくれて……


 そっから宴が始まって次々に酒注がれて……


 ……その後の記憶がねェ。


「みんなにたくさんお酒注がれてたから、いつもより早く潰れちゃったみたいだね」

「***……」

「でも、起きてくれてよかった」


 そう言って、うれしそうに笑う***。


 そっか、なんだ、よかった、夢か。


 そうだよな、***があんな日替わりで男替えるような女なわけないよな。


 あー、びっくりした。よかった、よかっ、


「……ってことは、夫婦のくだりも夢か! くそっ」

「どうしたの? エース」

「い、いや、なんでもねェ……」


 そっか、そりゃそうだよな。


 あそこも夢ならあそこも夢だよな。


 あー、なんかもう意味わかんねェ。


「イヤな夢見たの?」

「ん? あー、いや、まァ」










『ずっと一緒にいようね、エース』










「……いや。……そんなことも、ねェかな」

「そっか、ならよかったね」

「……」


 そうか、


 ……あれも夢か。


 ……そうか。


「録画しときゃよかったなァ」

「ええ? 夢を?」

「あァ」

「あははっ、おもしろいこというね、エース」


 そう言って笑う***の横顔を、そっと見つめる。


 だってよ、


 嘘でも言ってくれねェだろ? あんなこと。


「よォし! エースも起きたことだし! そろそろメインイベントといくか!」


 突然、サッチが声高らかにそんなことを叫ぶ。


「メインイベント? ってなんだ***……ってあれ、***?」


 さっきまで隣にいたはずの***の姿を探していると、甲板に続く扉が小さく開いた。


 そこから出てきたのは……


「***……」


 おっきなホールケーキを抱えてよたよたと歩く***を、周りの船員たちが「転んでくれるなよ」という空気で見守っている。


 目の前まで運ばれてきたケーキは、形は歪で、「Happy Birthday Ace」の文字も歪んでいた。


 いつもなら完璧な形のケーキを、サッチも含めコックたちが作ってくれているのに、今年はどうやら勝手が違うらしい。


「これな、最初から最後までぜェんぶ***ちゃんが作ったんだぜ!」

「***がっ?」

「あァ、相当な大きさだから、おれたちも手伝うって言ったんだけど、聞かなくてよ!」


 サッチがそう言うと、***は照れたように小さく俯いた。


「ごめんね、エース。私、あんまり上手じゃないくせに、ケーキだけは私が作ってあげたくて……」

「***……」

「でも、気持ちはちゃんとこもってるから!」

「気持ち?」

「あ、い、いや。だから、その……ひ、日頃の感謝の気持ち!」


 慌てながらそう答えた***に、エースの頬は自然とゆるむ。


「そっか……ありがとな、***!」


 笑ったエースに、***はほんのり頬を赤くしてはにかんだ。


「食っていいか?」

「もちろん! どうぞどうぞ!」


 ***が差し出したフォークを受け取ると、エースは大きめの一口サイズに掬って口に運んだ。


「ど、どう? エース……」

「……うめェ!」

「ほ、ほんとっ?」

「おォ! すっげェおいしい!」

「よかった……!」


 うまい、うまいと、ぱくぱくとケーキを食べ進めていくエースをみて、***は安堵したように息をついた。


「おまえ、お菓子もうまいんだな!」

「……」

「チャーハンもうまかったけどよ! あっ、ハンバーグも!」

「……」

「おまえの作った飯もまた食いて……ん?」


 ふと右側からジィっと見つめる視線を感じて、エースはハムスターのように頬を膨らませながらカオを上げた。


「なっ、なんだよ、人のカオジッとみて……」

「ん? エースって本当においしそうに食べるなァって思って」

「うっ、うまいんだからいいだろ」

「エースの食べてるところ見るの、好き」

「……へ」


 ぽかん、ほうけたカオで***を見つめると、


 夢の中の***と同じ、何かを慈しむような柔らかな表情。


 エースの胸が、変な音で鳴った。


「なんか、子どもが一生懸命食べてるのを見守る気分」

「こ、子どもかよ……」

「ははっ」

「そっ、そんな見てんじゃねェよ、食いにくいだろっ」

「おめでとう」

「へ?」


 その言葉と一緒に、ふわり、頭に伸びてくる小さな手。


「お誕生日、おめでとう、エース」

「……」

「エースの誕生日を、ここでみんなと一緒に祝えて本当にうれしい」

「……」

「エース」


 エースに会えて、本当によかった。


 照れたように眉をハの字に寄せて、***はそう告げた。


「……」

「あ、えっと、あっ! かっ、唐揚げもちょっと手伝ったんだよ! 今持ってっ……わっ!」


 気が付いたら、その手を引いて、夢の中のように***の身体を腕の中に閉じこめていた。


「エっ、エース! ちょっとっ」

「嘘じゃねェ」

「え?」

「夢の中で言ったこと、嘘じゃねェから」

「ゆ、夢?」


 ぽかんとカオを上げた***に、エースはこう続けた。


「***のことは、命に代えても、おれが守る」

「エース……」

「必ず、守るから」


 ずっと一緒には、いられねェけど、


 夫婦になんて、なれねェけど、


 それでも、


 おまえがここにいる時間の中では、全力でおまえを守る。


 おまえが帰ってしまったら、


 もう叶わなくなるから。


 だから、一緒にいられるあいだは、何があっても、絶対。


「……ありがとう、エース」


 腕の中で、ふわり、ほほえむ***が、とても綺麗で、


 エースは思わず、その唇にキスを落としそうになってしまった。


 ……さすがにそれはマズイ。


「おーいそこ! いちゃついてんじゃねェぞ!」


 サッチの冷やかしが聞こえてきて、エースと***は慌てて身体を離した。


「***! かっ、唐揚げもくれるか?」

「あっ、うっ、うん! 今、持ってくるね!」

「あっ、それからよ! 念のため聞いときてェんだが……」

「? うん、何?」


 目をまるくした***に、エースは真剣な眼差しでこう問い掛けた。


「マルコとは本当に台湾バナナプレイ、してねェよな?」


、現-ゆめ、うつつ-


悪ィ! ***! どうしても気になっちまって!


エースのバカ! もう知らないっ!


ったく、しかたねェヤツだよい。

グラララ……! いいじゃねェか……! エースが自分の誕生日に笑ってるなんざァ、初めてだからなァ……!


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