太陽は、二度沈む---01.01.2013--- -2

「……………瓶…?」


そして、それに寄り添うようにして置かれた一枚の封筒があった。


瓶の中には、キラキラとした綺麗な粒。


「これ、……………なんだろ…」


ピンクに白、みずいろにオレンジ…


初めて見るそれは、目を奪われるほどの美しいものだった。


コルクを開けると、ほんのり砂糖菓子のような香り。


食べもの、………………なのかな…


でも、食べものなんて、大切にとっておくような人じゃない。


どちらかというと、すぐにお腹に納めてしまう人だ。


なにか、よっぽど大切なものだったんだろうか。


私は不思議に思いながらも、封筒の方へ手を伸ばした。


ポケットにでも入れて持ち歩いていたのか、ところどころ折れていたり、よれていたりしている。


封がされていないその中身を、そっと取り出した。


そこには、一枚の紙。


手紙、かな。


読んでいいのかな。


もしかしたら、誰かに贈るはずのものだったのかもしれない。


宛名だけみて、本人に渡そう。


そう思って開いた、


その中には、たった一行。


『おまえの笑顔を、いつもとなりで見ていたい』


「わ、……………ラブレターだ…」


恋人か、片想いか…


片想いはないかな、


積極的に押しまくるタイプだし、恋に奥手、なんてガラじゃない。


封筒の方には宛名があるかもしれない。


そう思って、封筒を表向きに反した。


すると、


差出人には、彼の名前。


そして、










宛名には、










『***、さっきから上ばっか見上げて何見てんだ?』

『あ、そ、その、……………星が綺麗だなって思って…』

『星?……………ほんとだ、綺麗だな…』

『新世界で星がこんなに綺麗に見えること、なかなかないので…』

『……………星を見るのが好きなのか?』

『はい!だから、今のうちに目に焼き付けておかないとって思って…』

『…………………。』

『綺麗だなー…』

『…………………。』

『毎日見られたら、うれしいんですけどね。』

『…………………。』

『あ、あの、……………どうかされました?』

『ん?あァ、いや、……………なんでもねェ…』










震える手で瓶を持つと、私はそれをそっと持ち上げた。


カーテンのすき間から漏れる沈みかけたオレンジの光をそれにかざすと、


キラキラと、眩いばかりに輝く瓶の中の星屑たち。


それは、あの日、


彼と一緒に見上げたあの星空の輝きと、まったく同じ美しさだった。


…………………泣けなかったんじゃない。


私は、泣かなかった。


だって、帰ってくると、そう信じていたから。


泣いてしまえば、それが叶わなくなると、


そう、思っていたから。


だけど、


ほんとは、わかってるんです。


あなたがもう、


ここには、帰ってこないことを。


あの笑い声が、聞こえることも、


あの笑顔を、見つけることも、










『おう***!今帰ったぞ!おまえは変わりねェか?』










私の名前を、呼んでくれることも。


なにもかも、すべて、


もう二度と、叶うことはないのだと、


もう、わかっているんです。


やっぱり、あなたは、










死んでしまったのですね。










その瞬間、


まるで、涙腺が壊れたように溢れ出す涙。


世界が滲んで、なにも見えなくなる。


溢れて、溢れて、


止まらない。


「っ、エーズっ、だいぢょうっ…」


『おー、***!今日も洗濯か?』


「やだよぉっ…」


『見ろよ***!おれの手柄だ!ほら、ほしいもんあるか?』


「帰って、っ、ぎでよぉ…」


『あっ、あのさっ、島に着いたら一緒にメシでも食わねェか?』


「会いだいよぉっ…」


エース隊長、エース隊長、


私は、夜空に瞬く星空も、キラキラ輝く財宝も、


なにもいらないんです。


ただ、










ただ、ここに、あなたがいてくれたら、それだけで。


他にはなにも、いらなかったんです。










「っ、うっ、わあああああんっ…!!」


私はこの日、初めて泣いた。


エース隊長が亡くなってから、初めて。


カラリ、瓶の中で、星たちも小さく泣いた。



 


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