崩壊1/京流



空も最高に明るくなった正午。
言うても遮光カーテンやし、光はあんま目立たんのやけど。


鳴り続ける自分の携帯で目が覚めた。


誰やねん糞が。

僕寝たん朝方なんやけど。


眠さMAXで、自分の煩い携帯を掴んで、誰かを確認せずに耳に押し当てた。


「……何や」
『…京』


電話の主は、薫君。

いつになく、深刻な声しとって一瞬言葉に詰まった。

何か、仕事上でトラブルあったんか思って、一気に目が冴える。


『今、ルキ君おるか?』
「るき?」


そう言われて隣を見たら、似たような時間に帰って来て一緒に寝た筈のるきがおらんかった。


アイツ、今日仕事や言うとったっけ。


そんな事を思いながらベッドから身体を起こす。


「おらんけど」
『…ほうか。京、落ち着いて聞いてや』
「なん」
『………』


電話の向こうで、薫君が深い溜め息を吐くのがわかった。

薫君の言葉を待ちながら、煙草とライターに手を伸ばす。

煙草を1本咥えて、火ぃ点けようとした時。





『お前とルキ君との関係が、公に出とるらしいねん』
「…は?」





薫君の言葉に、ライターを掴む手が止まる。


『写真、言うても、携帯の写メから撮っとるモンらしいんやけど、ラブホから出て来る写真。ファンの間では結構騒がれとるらしいて、問い合わせが殺到しとるって』
「………」
『正直、こっち側はそこまで気にしてへん。…写っとるモン確認したら、確かに男同士って事はわかるけと不鮮明やし。知り合いが見れば、お前等やってわかるけど。ただな、問題があって、』
「……るきの方か」
『せや。ルキ君の事務所は管理が厳しいから、こっちにも来てな』
「………」
『ホンマ言いにくいんやけど…』
「何や。さっさと言え」
『…正直、別れて欲しいと。今後一切、関わりを持たへんように』


何となく、言葉はわかっとったけど、実際言われると頭を鈍器で殴られたような感覚やった。

咥えとった煙草を手で取る。


『取り敢えず、今から事務所来ぃや』
「わかっ、た」
『…いけるか?』
「何がやねん。いけるわ」
『…ほうか。ほな待っとるから』


そう言うて切れた電話。

僕はちゃんと、声を震わせずに返事が出来たかどうか。

自信はない。


何やねん。

ファンが、何やねん。

誰と付き合おうが関係あらへんやろ、仕事に。

音楽に。

舌打ちをして、出掛ける準備をするべくベッドから下りる。


リビングの方へ抜けると、ソファに人影。


何や、仕事行っとったんちゃうんか。


…コイツもあの事、聞いたんやろか。


「…るき」
「……ッ…!」


声を掛けると、ビクッと身体を跳ねさせてこっちを見た。

そのるきの目ぇは、今にも泣きそうやって。


あぁ、コイツも聞いたんやって。
そう、思った。


「京、さ…!」


近寄ると、るきの身体も動いて。
飛び付くように、抱きつかれた。

衝撃でよろけそうになったんを、踏張って抱き留める。


同じ音楽業界に身を置いても。

音楽も、境遇も、戦略も違う。


『別れろ』と言う答えが、るきの事務所が出した結論やったら。


それに逆らってまで、コイツから音楽を奪ってまで。
僕について来い、なんて。


こんな下らへん事で、自分が築き上げた地位がなくなるとは思わへん。


僕は、どうするべきなんやろか。


正直、僕の胸ん中で泣くコイツを、手放してやる事なんか出来そうもない。


やっと、手に入れた僕の平穏。








まだ愛しとるとも、言うてへんのに。




20100609


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