気付いてしまった/心→敏京



「なぁ京君。敏弥と住む部屋決まったん?」
「んー、まだ。何か敏弥が変な拘り持っとるから、なかなか決まらんねん」
「ほうなんか。敏弥がめちゃくちゃ嬉しそうに自慢しとったから、早々に引っ越すんかと思ったわ」
「まぁ仕事も忙しいしなぁ…引っ越しって考えただけでめんどそうやし」
「あー…せやな。確かにめんどいわ」
「敏弥がな『薫君に手伝って貰えば?』って言うててん」
「あいつ…」
「やから、手伝ってな」
「そりゃ京君の引っ越しやったら手伝うけど」
「うん」
「業者呼ばんの?」
「いつオフんなるかわからんし」


スタジオで缶詰状態で。
少しの休憩中、椅子に座る僕の隣に薫君が座る。

紙コップに入ったお茶が差し出されてそれを受け取って、他愛無い話。


敏弥、は。


まだ音が決まらんのか、心夜とブースに入って真剣に話し合いしとった。

休憩中やのに、熱心な奴。


まぁ僕にはベースの事とか、わからんし。

音がえぇ悪いぐらいしか。


あ、何か決まったんか。
話し合い終わったんかな。

敏弥が心夜と何か、話して笑っとった。


笑った顔も好きやなぁ、とか。


薫君の話を思い出して、敏弥と暮らすって決めた事がそんなに嬉しかったんか、とか。


何やこれ。
敏弥ばっか見とるとか、僕がめっちゃ敏弥の事好きみたいやんかアホらし。


敏弥が僕の事好きやねん。
アホな程に。


そんな事を考えながら、薫君がくれたお茶を飲む。


「ちょぉ京君、顔おもろいで」
「は?」
「あぁ、敏弥な。まだ音決まらんのや」
「別に、どうでもえぇし」
「いつもまとわり付いて来とるから、おらな淋しいんちゃう?」
「は、アホか。薫君頭湧いたん?」
「あんな顔するなら、敏弥の前でしたり。喜ぶで、あいつ」
「意味わからんし。薫君ウザい」
「はいはい、御免な」
「ちょぉ、ガキ扱いすんなや」


薫君が笑って、僕の頭をぽんぽんと叩いて立ち上がった。
その仕草と、言葉にムカついて噛み付く様に言うても笑って流すだけ。


何やねん。

ムカつくな。


隣から離れた薫君を見て、またブースん中の敏弥に目を移す。


あー、また心夜に絡んどるやん。

敏弥からかうん好きやもんなぁ。

心夜迷惑がっとんで。


楽しそうですね、敏弥さん。


音合わせは終わったんかコラ。


そんな風に思いながら、敏弥の方をじっと見よったら。
敏弥がこっちを向いて、ガラス越しに視線が合ったから目を逸らした。


したらブースのドアが開いて、煩い声が聞こえて来た。


「京君つっかれたよー!癒してー!!」
「チッ」
「ちょ、今舌打ちしただろ!何だよ俺頑張ってたんだよー!」
「うっさいわ。知るか。遊んどったんしか見てへんわ」
「ひでー」


めちゃくちゃ笑顔でテンション高い敏弥が出て来て、僕の方へと歩いて来る。

うん。

ウザい。


けど、別に悪い気はせぇへんから。


そんな事を思いながら、敏弥を見やる、と。
敏弥の後から出て来た心夜が目に入る。


「……」


今まで、気にした事も無かった。
気付いたんは、偶然やったんか。

僕も敏弥を、そう言う気持ちで見とるから。
同類って、わかるんかもしれん。


心夜の視線は、僕の元に来る敏弥に向いとって。

それは、メンバーに向けられる視線やなくて。
ちょっと憂いを帯びたモンやった。


一瞬、胸ん中がザワつく。


「京君何飲んでんの?俺にも頂戴ー」
「あ」


敏弥が僕の傍に来て、さっき薫君が座っとった椅子に座って。
僕の手に持っとった紙コップを取って残りのお茶を飲んだ。


一瞬だけ敏弥の方を向いて、また心夜の方に向き直った時には。
もう心夜はこっちを見とらんかった。


何か。

嫌や。


女なんかに負けへんって思っとるし、敏弥が僕の事大好きなんもわかっとる。

でも、ずっと一緒におる、メンバーやで。
嫌でも、傍でおるモンやのに。

近い存在やん。


「ねぇねぇ京君。この仕事終わったらさ、また不動産行こうよ」
「ん。えぇ加減決めよや」
「うん。どうしたの?」
「は?」
「手。此処スタジオだよ」
「え?…あ」
「ダーメ。離さないで。俺は大歓迎なんだから」
「……」


無意識に敏弥の手を握っとったらしい。
突っ込まれて離そうとした手を、掴まれた。


嬉しそうに笑う敏弥に、振り払わずにそのまま。


誰にでも、笑って。
優しい敏弥やから。


初めて、この笑顔が向けられるんは僕だけでえぇって。

そう、感じた。




20091204


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