海外ライブ中の充電/敏京
「京君、入っていい?」
「……嫌やって言うても入るんやろ」
「うん。お邪魔しまーす」
「…図体デカいから邪魔なんやけど」
「京君が腕の中にぴったりフィットだから大丈夫」
「はは、ウザ」
海外でのツアー中。
海外が大嫌いでイライラして、ずっとバスの中に引き籠もっとった。
敏弥は、日数を重ねて途中からよく僕の寝るスペースに入って来る。
バスん中で、今回のはちょぉ広くてえぇけど。
やっぱ男2人が入るには狭い空間やった。
敏弥はそんな中で当然の様に横んなって、僕の腕を引いて来る。
別にいつもの事やし、断る理由も無いからそのまま僕も寝転がって敏弥の腕に収まる。
「あーもー京君好きー」
「お前何なん。日本帰るまで我慢出来んの」
「出来ないね。まぁずっと皆といるワケだし、2人でいる時間無いから仕方無いかって思うんだけど。やっぱダメ。京君に触れてないとダメ」
「…は」
「何だよ。京君はー?」
「僕は別に…」
敏弥の腕の中に収まって、胸元に額を寄せとるから敏弥の表情は見えんけど。
優しい口調で、優しい手で、髪を撫でる仕草に酷く安堵する自分がおって。
それは幸せな事なんかもしれんけど、歌う僕にとってはダメな事。
こんな、異国の地で。
極限状態までなる精神が、緩和されて行くのが。
「……甘やかすなや、ホンマ」
何も出来んくなるやん。
お前が、おらな。
「やぁだ。俺がね、甘えたいの。京君に」
「……は、ホンマ…しゃーない奴やな」
「大好きなんだもん。京君切れしたら俺ライブ頑張れなーい」
「そこはやれや、ちゃんと」
「わかってるよ。だから充電させて、ね?」
「…しゃーなしやで」
「ふふ、ありがと」
敏弥が笑って。
身体が僕から離れて顔を上げさせられた。
アシメで長くした前髪を掻き上げられて、耳、頬、唇と指でなぞられる。
敏弥の、もう男らしくなってもうた顔が間近で見える。
その目は、めっちゃ優しい。
ごく自然に、唇を合わせて。
お互いの足を絡めた。
敏弥の指が首筋から胸元へと這って行って。
意図する事が、わかって敏弥の手に手を重ねる。
「…敏弥、アカンで」
「ちょっとだけ」
「アカン。お前絶対ちょっとじゃ済まされへんやろ。僕のこの上、薫君やから」
「いいじゃん。怒られんの俺だし。聞かせてあげなよ」
「声我慢出来んくて?」
「そうそう」
「あーほな、僕の声聞いて我慢出来んくなった薫君に相手して言われたら断れんかもしれへんなぁ…」
「…怒るよ」
「なら我慢しろや」
一気に拗ねた表情になる敏弥に、目を細めて笑みを浮かべて。
僕の身体を撫でとった敏弥の手を掴んで、僕の身体に回させる。
かわえぇな、ホンマ。
ガキみたいなトコは、いつまでも変わらへん敏弥。
敏弥の首に腕を回して、ゆっくりと唇に吸い付く。
ホンマ、何やっとんねん。
オッサン2人が。
バスん中で。
「…海外は嫌な事しか無いし、怠い」
「うん、京君頑張ってるよね」
「日本帰りたいわ。早よ」
「もうちょっとだよ」
「日本食食べたい」
「帰ったら作るよ。何食べたい?」
「寿司」
「食べに行くしか無いじゃん」
「やって海外から帰ったら疲れとるやん。やから、寿司」
「そっかそっか。もう京君可愛いなぁ」
「死ね」
「やでーす」
可愛い言いながら敏弥が僕の身体を引き寄せて、ピッタリと密着。
僕が独り言の様に呟く言葉に、宥める様に言葉を掛けられた。
腕を回した手で、敏弥の黒髪弄る。
敏弥がおらな、とか。
そんな風になりた無いのに。
そう思う自体が。
多分もう、手遅れ。
終
20091128
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