雪見/敏京
「雪やでー敏弥ー」
「寒いよ京君」
「は?ジジ臭い事言うなや!」
雪や。
雪。
東京でも雪降るんやなぁ。
積もっとるやん。
ツアーん時、東北行くと半端無く積もっとったりするんやけど、このオフん時に積もっとるって事が楽しいやん。
ツアー中は他の事に興味無くなるし。
部屋着のまま、狭いベランダへ出ようと窓を開けると、冷えた空気が流れ込んだ。
「さっむ!」
「そりゃそうだよ!京君寒いから早くこっちおいでよ。窓閉めてよ」
「えー、いいやん珍しいんやで。敏弥も見てみぃや」
「やーだー」
ベッドの中でまだ布団にくるまる敏弥を見ると、寝起きのボッサボサの頭を少し上げてこっち見とる。
うーわ、顔ぶっさいく。
それにしても寒いなぁ…でも雪とか、えぇやん。
真っ白で、何でも覆い隠してくれんねん。
「冷た…っ」
ベランダにもちょっと積もっとって、そのまま出ようとしたら足の裏にモロ雪の感触。
冷た過ぎる。
裸足で外出るんは無理か…。
残念やなぁ。
雪。
外行ったらえぇんやろけど。
僕自身も雪に降られたら白く何でも消してくれるんやろか。
ま、無理やろけど。
ぼーっとそんな事を考えながら窓を開けて冷たい風を浴びとったら、背中からいきなり抱き付かれた。
敏弥ってわかっとるけど、いきなり何やねん。
でも、敏弥のその身体には毛布と一緒になって巻き付かれてぬくい。
「アホ、いきなり何やねん」
「んーだって寒いじゃん」
「お前布団中やったやん」
「違うの。京君が隣にいなきゃ寒いの」
「はァ?」
「だから、何処にも行かないでね?」
「………」
ぎゅうっと、更に抱き締められる。
後ろにおるから、敏弥の表情は見えへんけど。
何や。
何か、自分の考え読み取られた感覚すんねんけど。
敏弥の癖に何やねん。
「敏弥の癖に、我儘言うなや」
「うん、御免ね、京君」
更に強まる腕。
寒なって、窓は閉めた。
部屋ん中から窓越しに見える雪は、いつもと違う風景をもたらして幻想的。
その内消えて無くなんのにな。
僕は此処におって。
雪でも無い。
僕やから。
アホみたいに心配すんなや。
「敏弥、腹減った」
「雪はもういいの?」
「うん。見たし冷たいし寒い」
「雪だから当たり前じゃん」
「やから早よスープ作ってや。コンポタ」
「わかったよー。京君も一緒にねー」
「は!?何やねん離せや!」
「はい、一緒に歩いてー」
「アホ!!」
何や抱き締められたまま一緒に歩かされた。
何やねんコレ!
むっちゃ痛いやんこの行動!!
体格差で振り解く事は無理と判断して、渋々キッチンへ一緒に移動する。
あー…何かこんな事しよる自分にヘコむわ。
「雪、後で見に行く?」
「ん?」
「雪。何か遊びたそうだったじゃん」
「そりゃ珍しいけど、遊ぶまではいかんやろ。いくつやねん」
「いや、京君なら雪で遊んでも全然…」
「あ"?」
「…スミマセン」
敏弥が作ったインスタントのコーンポタージュを持って、ベッドに座る。
敏弥はずっと背中にくっつきっぱなし。
ウザいけど、本気振り払えへんのは、さっきの敏弥の声と言葉、自分の気持ちの所為かもしれへん。
「京君寒いよー」
「はいはい。コンポタはやらんで」
「ひでぇ」
そう言ってベッドの上、後ろから抱き締めて来る敏弥の腕は、何よりもあったかいねん。
終
20081230
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