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結果を見よ

「尊、来て」

「っは」

今や元服を迎え、城主となった名前が誰一人として気配のない自室でそう言えば、音もなく現れる。尊奈門を呼んだその人は、背中を向けたまま振り返るでもなく文だけを放り投げなげる。

「この文を昆の所に持ってってくれ、今すぐに」

「?はい」

下されたのは簡単な願い事。呼び出したからにはもっと用が有るのかと思いきや、それだけなようで背中を向けたまま、ひらひらと手を振られる。それを見た尊奈門はまた音もなく部屋から出たその足で、命令された通りに組頭のもとを目指した。

たどり着いたその部屋に目的の人物はいた。

「組頭」

「何」

「殿からこれを」

そのまま文を渡せば、意外そうにパチリと瞬きをしながら受け取った文を見て笑った。

「今名前様の部屋に誰かいる?」

「?いえ、誰も」

「尊奈門もまだまだだな」

「え?」

尊奈門に見えるように開かれたその文に書いてあるのはただ一言。無駄に達筆な字で

行ってきます

ただ、それだけ。

その言葉を見てはてなを頭に浮かべた部下を一瞥しながら昆奈門は口を開いた。

「新人が来て尊奈門に仕掛けるのを止めたかと思ってたけど、まだ遊ばれてるな。名前様はまた脱走したみたいだよ」

「………またですかぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」


この日もまた、一人の忍が城主となった青年によってもて遊ばれたのであった。


______


「うん、抜け穴っていうのも面白くていいね。見つかりにくいし」

「そーですかー?」

「そうそう、やはり喜八郎引き入れて良かったよ」

「へー」

上機嫌で町を見ながら歩いているのはこの町の城主となった名前。その斜め後ろを歩くのは忍術学園を卒業すると同時に名前の命によりスカウトされた綾部喜八郎だった。

「昆には分かるように伝えて来た。急ぎの案件も無い。ある程度余裕が出てきたんだし、僕が数刻居なくても平気だよ」

「ふ〜ん」

まるで興味がないような綾部の様子に思わずというように笑った名前

「うん、やっぱり正解だね。そんな風に僕に言える忍なんて数少ないよ」

「数少ない、ならいるんじゃないですかー」

「昆が居るからね。あれは僕にも遠慮も物怖じもないよ。幼い頃は忍に混じって遊んでいたしな」

「今も忍で遊んでるでしょ」

「そりゃあ、勿論」

悪戯が成功した幼子のようにあどけない顔で笑った
名前は普段城に居るときに受ける印象とは違い随分幼い。幼少時から多才と言われた名前だが、元服後、城主になり息つく暇もなく行政の改革を行いつつ隣国との戦。忍隊を上手く使いながらも数多くのことをこなしていた。

そして、

やっと落ち着いた頃から復活した名前の悪癖。放浪癖。
幼い頃の名前を知らない綾部はそれまで知らなかったが、幼少時から名前に仕えている者たちの話を聞き、実際に目にした。

「喜八郎、行くぞ」

気が付けば、名前が城を抜け出すとき必ず供にさせられるようになっていた。

「怒られるの名前様じゃなくて僕なんですけど」

「甘んじて受けてよ…ほら、団子屋着いたぞ?好きなだけ食えばいい」

文句は言わせないとばかりに足を進める名前は他の客には気付かれない程度に周りを見渡し頬を緩めた。

「ん、ほら喜八郎注文してよ。僕やり方知らないし」


名前様の脱走はよくあること。忍隊組頭が認めて必ず供を着けるようにしているのだから。
限られた自由な時は、まだ若い殿の心休まる時を望む


結果を見よ
「脱走自体は少なくなってるし必ず供を着けるようになっただけ成長したんじゃない」
「組頭は見てるだけですからね!!!実際走るのは私ですよ!!!」
「ほらそんな事言ってる暇があるならさっさと名前様捕まえに行きなよ、尊奈門」
「…だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!もう!いきますよ!!行けばいいんでしょう!!!?」


「…尊奈門にも後輩が出来たんだからそいつら使えばいいだけなんだがな」



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