■ 世界の転換期



ずっと気にしてた。

だって、人と違うから。



私は生まれつき、瞳の色素が薄いという身体的特徴があった。
別に外国の血が混じってる訳ではなく、両親も祖父母も列記とした日本人で、見た目もどこからどう見ても日本人そのもの。


でも私だけ、瞳の色が違った。



両親はそんな私を愛情たくさんに育ててくれたし、大好きな祖母はいつも「名前の瞳は優しい色をしているねぇ」と頭を撫でながら褒めてくれた。


だから、小学生の頃までは自分の瞳の色に誇りを持っていた。





けれど、中学に上がるとそれは一気にコンプレックスへと変貌した。


一つ上の学年の、スクールカーストを牛耳ってるような先輩に目をつけられたからだ。



「調子に乗るなよ」「気持ち悪い色」「ハーフでもないくせに生意気」なんて、甚だ理不尽な理由で詰め寄られ、パシリに使われる日々を過ごした。

きっかけは何でもない、ただ彼女の想い人が私の瞳の色が綺麗だと褒めていた、というたったそれだけの事だった。


けれど当時の私には、それに抗えるほどの力も度胸もなくて。
ただ言われるがままにいいなりになっていた。


そんな生活は中学を卒業するまで続いて、きっと高校でも同じように目をつけられるのだと諦めていた。


しかしそんな私の予想はたった1人の存在によって大きく外れることとなる。










………………………






その日はいつものように、教室の隅でひっそりとお昼のお弁当を食べていた。

入学したてのこの学校で、中学で虐められていた私がすぐに友達を作れるはずもなく。
隅っこで小さくなって食べるのが段々と習慣づいてきたその日に、遂に恐れていた事態が発生したのだ。




「なぁ、苗字って目の色なんか違くね?」




それはまだ一度も話したことがない男の子の口から発せられていたけれど、視線は一切絡まずに友人の男の子へと向けられていた。
恐らく私が教室内にいることにすら気づいてないんだと思う。

「そうかぁ?アイツいっつも前髪で目隠れてて全然みえねーんだよな」なんて仲の良さそうな数人グループで話すその会話の話題に、私は嫌な記憶が蘇る。




「もしかしてハーフとか?」


「いやでも顔は日本人っぽくね?」


「じゃあ…もしかしてカラコンか?!」


「あの地味さでそれはねーだろ!」




当人がすぐそこに居るとも知らず、男の子たちは下品にゲラゲラと笑って私を値踏みする。

イジメと比べたらこんな会話可愛いものかもしれないけれど、中学までの苦い思い出のせいで私にとっては間違いなく地雷で。


段々と気分が悪くなっていくのを感じ、視線を下げて俯きかけたそのときだった。

彼、虎杖くんが会話を遮ったのは。




「そうか?アイツすげー綺麗な目してると思うけど」




その言葉に、私は思わず顔を上げた。

この瞳の色を褒められたのは、数年前に亡くなった祖母以来だったから。




「なんだよ虎杖、もしかして好きなのか?」


「え、話した事ねーからそれは分かんねーけど」


「じゃあなんでフォローすんだよ」


「いやまじで綺麗なんだって!今度見てみ?」



その後も虎杖くんは「消しゴム拾ってくれた時にたまたま目が合って」とか「光があたってる訳でもねーのにキラキラしてて」とか聞いているこちらがもういいよと言ってしまいたくなるほど私の瞳を褒め倒してくれて、最終的には他の男の子たちまで「虎杖がそこまで言うなら」なんて納得してしまっていて、私は全くもって言葉が出なかった。



人生で初めてだった。
この瞳で生まれてきて良かったと思えたのは。



その後のことはあまり覚えていないけれど、とにかく涙が止まらなくて保健室へと逃げ込んだ事だけは覚えている。


後にも先にも、こんなに嬉しくて温かい気持ちにしてくれたのは虎杖くんだけだ。




どうにかして泣き止んだ後に教室へと戻ると、虎杖くんは当たり前だけど普段通りに机に突っ伏して寝てて、けれどいつも好奇の目を向けてきてた男の子たちからは、純粋な興味の視線のみが向けられるようになっていた。






たったこれだけで恋に落ちてしまうのだから、私はきっと単純なんだと思う。

でも、虎杖くんが私の世界を180°変えてくれたのは紛れもない事実で。



きっと。きっといつか、自信を持って自分の目をさらけ出せるようになったら。
前髪で隠したりせず、堂々と過ごせるようになったら。



そしたらきっと、最大限の勇気を出して、


あなたに話しかけてもいいかなぁ。






end

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