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先輩、後輩


「ち、ちょっと……少しは休みなさいよ……」
「うん……」
「……お茶、置いとくわよ?」
「うん……」

生返事の優希にみちるが苦い顔をする。ずっとこの調子の隊長に、はぁ……とため息をついてみちるが霞の横に行く。

「霞、あんたどうにかしなさいよ……!」
「どうにもならないでしょ。あれ」
「で、でももうずっと、ずーっとああよ? 連携の練習とか言って体動かせたほうが……」
「あんなんで練習になるならやらせますけど……」

最初でかなり得点をあげたこともあり、第2ラウンドでマークされながらも点を伸ばした久野隊は無事B級中位に上ってきていた。途中で勝てないとふんだ相手に緊急脱出をされる展開があったくらいだ。

対戦相手を見て気持ちはわかるけど、とみちるは優希を盗み見た。

他の隊のオペレーターから初日に解説席がどんな解説をしていたのか教えてもらっていたが「荒船隊とかだと厳しい」という解説の言葉がなにかしらのフラグにでもなったのか、今回の対戦相手は柿崎隊と荒船隊だ。どちらも中位に安定している隊。優希が対策に熱くなるのもわかる。でも心配なものは心配だ。

霞もまぁ……と心配そうなみちるにとりあえず優希の横に行ってみる。

「……優希さん」
「うん……」
「今日飯おごってくれます?」
「うん……」
「やった」
「ちょっとあんた! なにしてんのよ!」

真顔でガッツポーズをした霞にみちるが怒る。どさくさにまぎれてたかるんじゃない!と言うと「これで優希さんちゃんと飯食いますよ」と悪びれもせず霞が言った。





約束しましたから、と優希をラウンジに引っ張ってきた霞は定食を頼んだ。優希はおろおろとしながら、自分と霞の分のお金を支払った。

「おごってもらってありがとうございます」
「う、うん……?」

気付いたらおごることになっていた優希は首をかしげつつもまあいいか、と納得した。なんだか自分が影浦先輩になったみたいだなぁ、と思っていると、口に出ていたのか「かげうらせんぱい?」と霞が食べ始めながら聞いた。

「え、えと、あの……すごく、優しい、先輩……」
「へえ」
「た、たまにあの、おごって、くれる、から……あの、わたしが、先輩になったみたい、だなぁって……」
「……みたい、じゃなくて、先輩じゃないですか」
「え?」
「? 先輩でしょ、おれの」

霞の発言に、優希ははわっ!?と目を見開いた。もしお茶碗を持っていたら落として大惨事になっていただろう。せんぱ、せんぱい?わたしが?優希の表情に霞が「どうかしましたか?」と聞いた。

「せ、せんぱ……先輩?」
「はい」
「せ、先輩……わたしが……!」

ぱああっと表情が明るくなった優希に、よくわからないけど元気出たならいいか、と霞はおかずの焼肉をほおばった。





え、えへ、えへへ……優希は新しく柿崎隊のデータを資料室でコピーした帰り、えへえへと嬉しそうにしていた。

先輩、えへ、わたしが。うふふ。霞くん、そんなふうに思ってたのかぁ。うふふ。すごく嬉しい気持ちで廊下を曲がる。と、「……」すごい顔をした菊地原と出会った。

「え、えと、な、なに……?」
「なにってこっちのセリフなんだけど。久野、ずっと笑ってたでしょ」

聞こえてたんだけど。という菊地原の言葉にがーんっ!!と優希がショックを受ける。き、聞かれていた……うふうふ嬉しがっていたのを……恥ずかしい……。恥ずかしがる優希を無視し、「なにかあったの」と菊地原が聞いてきた。

「え、あの……こ、後輩、が、できた……」
「……それだけ?」
「う、うん……」

よくそれでそこまで喜べるね、と菊地原が変なものを見るような目で見てきた。

「で、でも、う、嬉しかった、から……」

下を向いたまま言った優希に、なにかに気付いたのか菊地原が「こっち向いて」と優希の顔をあげさせた。言われるままに顔をあげた優希を、じっと見る。

「え、あ、あ、の……」

あまり人の顔をまじまじ見ないでほしい。菊地原はじいっと優希を見たのち、「いつもよりずっとひどい顔してる。寝た?」と聞いてきた。ひ、ひどい顔……優希は静かにショックを受けた。

「ね、ね、ねては、あの、ないかも……」
「寝てないの? 基本的な生活習慣もできないでランク戦なんて笑わせないでくれる?」
「う……」
「……今日はデータまとめやめて帰りなよ。遅い」

「あ、もちろんデータ持って帰ったらだめだよ。家で見ちゃうでしょ」しっかりと釘を刺してきた菊地原に優希はただただ「は……はい……」と言うことしかできなかった。
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