×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -









一難去ってまた一難


先日、ランク戦前。霞との会話で相変わらずおどおどしている優希を見て、みちるが「まずいわ」と呟いた。

「試合でまでこんな態度じゃ、通信で会話してる間に敵に取られちゃうわよ」
「ご、ごごごめん……」

会話でつまづいていたら、試合中の作戦のやり取りも難しくなる。優希は特に、この隊の指揮と作戦両方をとるのだ。霞の入隊が遅かったとはいえ、このままではまずい。だからといって、慣れるための時間はない。みちるは渋い顔をしたが、とりあえず、と会話を変えた。

「今日は隊の初任務だから、しっかりいきましょ」
「う、うん……!」

そう。今日は久野隊を結成して初めての防衛任務なのだ。みちるも霞も、今回が初仕事となる。腕が鳴るわ、とふふんと笑ってみちるが腕を回した。





ヒュカッ! スコーピオンと弧月が正確に近界民を排除していく。今まで優希一人でやっていた分に優秀な攻撃手が加わったのだ。任務は滞ることなく進んでいく。

『久野隊、任務完了しました。撤退します』
『了解』

他の隊に優希が連絡する声が機械越しに聞こえる。今日の任務の総合指揮は出動部隊の中で一番ランクの高かった東隊だ。いずれ勝ち上がったら東隊ともあたるかもしれないわね、とみちるは一人頷く。それから、あら? と少し違和感を覚えた。

なんだか今、とんでもない見落としをした気がする。慌ててモニターを見るが、優希と霞にはきちんと視覚情報も担当防衛区域も送られている。なら一体……あ。

「ああああ!!」

みちるがあげた大声に、通信が入ったままだった優希が『なっなに!?』と聞いてきた。

『みちるちゃん、なにかあったの!?』と聞いてきた優希に、みちるは確信した。

「いける、いけるわ優希! ランク戦大丈夫だわ!」
『な、なにが!? 無事!?』
「無事よ無事! ……っああもう!早く帰ってきなさい!」

説明したいが、どうせなら顔を見て話したい。ああ、そうなるとまたいつもの彼女に戻ってしまうだろうけど。でもいい。早く喜ぶ顔が見たかった。





「任務?」「そう」得意げにみちるが頷いた。

「優希、自分で気付いていないかもしれないけど、任務中は口調がいつもより流暢なのよ」
「えっ……えっ!?」
「え……いや、そんなことなかったですけど」

霞がえ?と思い出すように言った。別に任務中だから、ということは感じなかったと霞は言う。戦闘中にいつもよりきびきびしてるのは確かだが、口調は変わらなかったと。それを聞いたみちるは「てことは……」と考え直した。

「優希、東さんへの報告内部通話でやってる?」
「えっ……あ、ああ、そ、そういえば……」

単独任務慣れしている優希は、常に警戒態勢のまま報告をしているので口を動かさず報告をする癖がついていた。といっても、今指摘されて初めて気付いた癖だった。

「東さんへの報告、優希一回もつまってないのよ。もしかして口頭じゃなくて内部通話だからなのかも」
「そ、そうな、の……?」

優希が目を輝かせた。それはつまり、と言いたげな優希の視線にみちるが頷く。

「ランク戦中は常にオペレーティングとの連携で身内と通信機が使えるわ。そうすれば、あんたもスムーズに作戦が指示できる」
「……っ!」

「あんたが言った通り。チームだから見つかること、あったじゃない」みちるがにっと笑った。







「さあ始まってまいりましたB級ランク戦新シーズン!」

気持ちの良い武富の声で開幕したB級ランク戦。武富と実況席がランク戦の解説をする中、観覧席にはちらほらと隊員が集まり始めていた。間に合ったー! と小荒井が座ると「どこ行ってたんだよ」と隣にいる奥寺に窘められる。

なあ、奥寺が小荒井に観客席を見るように言う。いつもよりC級多くないか? という奥寺にふっふっふと小荒井が教えてやろうと指を立てて笑った。

「久野の隊に入った攻撃手、C級の個人戦で無双してたんだよ。入隊式もやばかった」
「あー、お前入隊式担当してたんだっけか」

納得する奥寺が「てかこいつ攻撃手なのかよ」とモニターに映る久野隊のメンツを見ていった。久野は当然攻撃手だし、フォロー役いないの? とチーム編成に疑問があるようだった。

「わかんねぇけど、久野ならうまいことやるだろ」
「うーん、まあ、そう思うけど……スコーピオンなのか?」
「いや、弧月だった気がするけど」
「えっ……マジでどうやるんだ?」
「まっ久野ならうまいことやるだろ」
「お前そればっかだな」

二人が話しているうちに、開幕の合図が鳴る。全部隊がマップ上にランダムに転送される中、隊員が少ない久野隊はかなり遠くに配置された。そして途端に、優希がグラスホッパーを起動させた。

「お」と奥寺は足の速い久野が霞に合わせる編成なのか?と思った次の瞬間、予想と逆方向に優希が走り始めた。

「おっと久野隊長! 合流しない!!」

武富の声と共に、画面が切り替わり今度は霞がモニターに映る。霞も優希とは逆方向に走っているようだった。

「向かう先は……あっと!?」

ヒュカッ! 一瞬で敵との距離を詰めた二人が、同時に相手の首を狩る。あまりにも一瞬の出来事に、観覧席も、そして対戦相手もぽかんとしたままだった。それは当然奥寺もで、なるほど……と納得する。

「まったく連携してねぇ……」

その後も同じ調子で点を取っていく久野隊を見て、武富も「これは……なんとも珍しい……」という感想を述べた。確かに数の不利を埋めるなら、最初の1対1に倒してしまえばいい。なんともわかりやすい編成に解説席も「同時に個人戦ブース見てるみてぇ」という感想だった。

結果として、久野隊は初試合でかなりの高得点を挙げた。しかしまあなんというか、強いから強いみたいな戦い方だ。解説が総評をしていく中で、「荒船隊とかだと厳しいのでは?」という感想が出る中、同じことを思っていた奥寺も「大丈夫か? 久野……」という感想だった。