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影浦隊


「あ、か、影浦先輩……!」

本部で影浦を見つけた優希がぱあっと顔を明るくした。先日の一件以降、優希は影浦を影浦先輩と呼んで慕っていた。優希が見かけて声をかける隊員は、今のところ照屋と影浦くらいのものである。

「……おー」

優希の呼ぶ声は小さかったが、感情が刺さりまくっていた影浦はすぐに振り返る。

「お、おはようございます。あの、に、任務ですか?」
「別に。ブラブラしてた」
「そ……そうですか……」
「……」

ざくり。優希が顔を下げるのに比例して、影浦が眉をしかめる。「……あ、あの………」なにか言いたげな小さい声に、影浦が溜め息をつく。

「……着いて来てぇならぼさっとしてねぇで来い」
「は、はい……!」

ぱあああっ。見るからに笑顔になる少女に、影浦はマスクの下で、歯をぎりりと食いしばった。先日からなぜだか懐かれてしまった後輩は、とても自分を気に入っている、らしい。言われなくとも感情がばしばしに伝わってくる。というかこれは、体質関係なく普通にわかるレベルで気に入られている。それはいい。別に。ただ、この後輩から伝わってくる感情が問題だった。全身を優しく羽毛で包み込まれているようだ。正直ずっとこの感覚なことがきつい。穏やかな気持ちにさせられる自分がとても気持ち悪い。

「あ、あの……」
「……なんだよ」
「か、影浦先輩って、その……おた、たん、た、」
「た? あ?」
「たん、たんじょ」
「あー!」

優希がなにかを言いかけている間に、女の大声がそれを遮った。声からして誰だかわかった影浦がその方向を睨みつけると、一人の女子がこちらを指差していた。

「なんだカゲ! 誰だそいつ! うちいれんのか!?」
「ちげーよ」

答えさせる気のない早い質問をしながらこちらへ来て身を乗り出す仁礼に影浦が冷たく言った。前々から「後輩が欲しい!」と駄々をこねていた自隊のオペレーターは「ちげーの? なあお前うち入れよー!」と明らかに見た目が年下の優希の腕を取った。

「ひ、ひ、ひええ……!」

急な距離の詰め方が苦手な優希がぐるぐると目を回す。それを見て「てめーはお呼びじゃねぇ。帰れ」と影浦が仁礼に言った。「ああ?」仁礼はその言い方に機嫌を悪くしたが、すぐにピーンッ!となにかが思いついたように表情を変えた。

「はいはい、帰ればいいんだろ」
「うえっ?」
「よーし、まずは一日体験からだ! びしばし行くぞ!」
「おい!」
「えええ……!?」

仁礼に引っ張られたまま、あっという間に優希は連れていかれてしまった。一人残された影浦は「あのバカ女……」と心の中でつぶやいた。







「いいか、基本この長椅子に集まるからな」
「は、はい……」
「で、ここが台所な。男どもはいれなくていい、使えねーから」
「ひ、ひゃい……」
「大丈夫か? やっぱ引っ張ってきたのはまずかったか……疲れたのか?」
「い、いや、あ、あの、あ、つ、かれてな、です……」
「そうか? んでここがなー」

は、早くきて影浦先輩……。優希は心の中で頼りの先輩を呼んだ。この女の人は仁礼さんというらしく、私に影浦隊に入ってほしいらしい。それはとっても嬉しいけれど。し、知らない人だから……。

「ヒカリちゃん、説明はそれくらいにしたら? おかしでも食べながら話そうよ」

奥から出てきた男に、ぴしっ!と優希が固まった。「お、それもそうだな」と仁礼が返事をする。お、男の人……!そ、それもすごく大きい……!

「おし、座れ優希! 今日のおやつは私のチョイスだからうめーぞ!」
「それにしても、本当にカゲの知り合いなのその子。全然タイプ違うけど」
「でも一緒にいたんだって。なあ、なんでカゲと知り合いなんだ?」
「え、えと……」
「あっ! そういや攻撃手らしいな!その関係か!?」
「でもカゲ最近そんなランク戦出てないけどなぁ」
「それもそうだな……なあどうなんだ?」
「あ……あ……」
「あ? なんだ?」
「おめーらいい加減にしろ」

初対面かつ複数人からの質問攻めが、ようやく作戦室についた影浦に遮られる。優希はその声にゆっくり振り返り、影浦の姿を見つけ「か、かげ、せ、ぱ」とその目にじわあ、と涙を浮かべた。それを見て、影浦がはあ、と息を吐いた。

「なんだよカゲー邪魔すんなよー」
「うるせえ」
「って……えっ!? な、なんだ!?どっかいてーのか!?」

影浦に文句を言ってから優希のほうを見た仁礼が慌てる。それに対し、「おめーらが怖かったんだよ馬鹿」と影浦が返事をした。涙目の優希が「す、すみ、ませ、あの、仁礼さん、わるくない……」と鼻声で言った。

「わた、わたしが……ちゃん、と、言わなかっ、からぁ……」
「でででも嫌だったんだろ? ご、ごめんな? おおおお菓子食うか?」
「えっえっ? ご、ごめんね。お茶飲む?」
「ああ、あり、ありがど、ございます……」
「なんで泣かされた相手に礼言ってんだよ……」

出されたお茶を飲みながら「や、やさじい……影浦ぜんばいの隊の人やざじい……」と泣く優希に「お前ほんとすぐ泣くな」と影浦が呆れた。







そういや、と影浦隊の作戦室から帰ろうと廊下を歩いてたとき影浦が言った。

「お前、さっき何か言いかけてたろ。なんだよ」
「あ……あと、あの、えと、お、おた、たんじょうびって」
「あ? なんで」
「ぷ、プレゼント、とか……」
「いらねーよ」
「えっ……あ、あはは……そ、そう、ですよね」

ざくり。

「へ、変な事言って、ごめん、なさい…………」
「……」

ざくざくざくざく。すごい勢いで刺さってくる感情に、影浦はぎゅううっと胃を絞られている気分になった。なんだか、すごく悪いことをした気分だ。影浦の表情がどんどん険しくなっていくことに気付いた優希が、とても申し訳なさそうな顔をしていた。

「……6月4日」
「……!!」

ぱああああっ! 涙目のまま笑顔になった少女に、もしかして手綱を握られたのは自分なのかもしれない、と影浦はようやく気付いた。