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掬ってよコンソメ

◆◆◆◆


レイド、レイド! 主人の声にはいと駆け寄った。木陰でサンジが物珍しそうになにかを見つめていた。丸っこくて、ふわふわとした斑なオレンジ模様が目立つ毛玉。ああと頷いて、手でその毛玉の喉を撫でてやる。

「これが猫、ですよ」

前にお話しした、あの。ぐるると喉を鳴らすねこを見るサンジはねこ、と言葉を繰り返した。おっかなびっくり、といった様子で、少しだけ小さい手が猫に触れる。猫はんなぁ、と鳴いて反応した。

「かわいい」小さく主人が呟く。お気に召したようだ。慣れない手つきで、ふわふわと猫を撫でている。

城中の敷地内にある、狭く、庭とも呼べない場所。奥のほうにゴミ捨て場くらいしかないここは、一日に二回のゴミ捨ての時以外人気はない。一人になりたいときに、レイドがたまに訪れる場所だった。少し自室を出ても城中は他のご兄弟に見つかるかもしれない。外で人気のない場所というと、ここくらいしか知らなかった。リスクはあるが、少しでも主人の気持ちが晴れればと思って外に連れ出した。

「春で暖かいから日向ぼっこにでも来たんでしょう」

夏が来れば、暑い暑いと日陰に行ってしまうのだと説明した。だからきっと夏場は日陰で会えるだろうと。

へえーと目を輝かせる彼は、今日も怪我をしていた。訓練所や、王族のみが入れる場所にレイドが立ち入ることはできない。立ち入ったところで、王子たちの行いを自分が止めることなんてできるはずもない。自分にできることは、ただ一瞬の楽しさを感じさせることだけなのだ。

「レイド?」

なかなか返事をしないレイドの顔をサンジが覗き込んだ。健気なその子供に、「可愛いですね」とレイドが笑って答えた。






ばん! 耳元で衝撃が弾ける。じりじりと痛む頬。口の中が切れたのか、じんわりと血の味が広がった。へたくそな叩き方しやがって。跡が、残ったらどうするんだ。

「本当にお前はちゃんとやっているのか!」

ヒステリーに叫ばれた。半ば八つ当たりのようなそれは、憤りと焦りが混ざった声音だった。

誰もわからない。なぜか、彼だけが。第三王子だけができない。研究者たちと、事情を知る者は気付き始めている。特別なはずの王子様が。月日が経つにつれ追い付くと言われていた彼と他の王子たちのスコアは、反対に、月日が経つにつれ離れていった。まるでこれでは、ただの子供のスコアだ。誰かが、だけど全員が思っていたことを言った。

ふう、ふう、と浅い呼吸で執事が去っていく。ああ、馬鹿な男め。顔を傷つけるとは思わなかった。見える場所は、今まで避けていたくせに。

でも、そうだな。もう、見えたって構わないんだろうな。

近頃自分の周りから明らかに人が減ったことはよくわかっている。その理由も、わからないほど能天気ではない。そもそも人と個人的に親しくしないようにはしていたが、こうも露骨か。まあ、自分も同じ立場なら近寄りたくもないが。

第三王子に対しての周囲の視線は、徐々に変化し、まるでいない者のように扱うものもいる。下手に関わって、他の王子や王の機嫌を損ねたくはないのだろう。そうなれば当然、一番近い場所にいる男に近寄ろうなんて奴はいなくなるわけだ。なにも考えない酒飲みはいるが。

「……っ」

顔の腫れを冷やすために水を汲む。力を入れた腕が痛んだ。ああ、全く、本当に面倒だ。いつの傷だろうか。誰に八つ当たりをされたときの。腕に残る痕に顔をしかめて、白いシャツを引っ張った。


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