唯我が部屋の前で体操座りしてた
「……唯我くん? 何してるの?」
学校から帰ると、何故か唯我が自室の前で体操座りをして待機していた。それを見つけて声をかけると、はっとしたように唯我が顔を上げる。
「〜〜名前ざん!」
「あ、はい。なるほど」
顔を上げて真っ先に涙目で名前を呼ばれた。なるほど、これは助けてくれモードだなと察して部屋に招いた。
「みなざんひどいんでずよぉ!!」
「あーうん。わかったから一回鼻水拭こうか?」
開口一番で太刀川隊で起きた唯我曰くひどすぎる出来事を話しはじめたが、まず名前はティッシュを差し出した。唯我はそれを受け取り鼻チーンをした。
「それで? 今回は何があったの?」
「国近先輩が僕を追い出したんです!」
「え、国近ちゃんが? 出水くんでなく?」
普段唯我をいじるのはどちらかといえば出水と太刀川の役回りで、国近はそれを笑顔で見て助けないという、ある意味一番残酷な立ち位置にいるはずだ。それが今回は唯我を追い出しまでしたらしい。
話を聞いてみると、国近がゲームをしているときにやかましくしていたら追い出された、というものらしい。普段はそこまで厳しくないはずなのに、きっと機嫌が悪かったから八つ当たりだ!弁護士を呼んでくれ!とえぐえぐ唯我は泣いていた。
「うーん、多分あれだな。国近ちゃんが新しく買ったゲームのオープニングでうるさくしたとかじゃないかな」
先日から国近がチラシに大きく赤丸を付けて待ち遠しく待っていたゲームが昨日発売されたはずだ。確か大人気ゲームの続編と力説していたため、おそらくそうだろうと目星をつける。
「それはまずいよ唯我くん。後でちゃんと謝ろう」
「ええ!? 名前さんまで酷い!」
「いやいや、国近ちゃんにとってゲームは酸素より大切な物。それの邪魔をしたってのは重罪だよ」
「そ、そうなんですか……!?」
「そうそう」と名前が適当に相づちを打つ。普段から後輩らしく甘やかしてくれる名前に懐いている唯我は「なるほど……」と納得してしまっていた。
携帯を出して唯我が帰ったらそれとなく許してやってくれと国近に連絡を入れておく。「今は多分まだ怒ってるかもしれないから、少し経って戻ったら謝りなね」と唯我に笑いかける。と、唯我はティッシュで鼻を拭きながら名前をじっと見ていた。
「どうした?」
「……名前さん、太刀川隊に戻らないんですか?」
「またそれかい」
「だって! そうしたらみなさんの僕への対応も少しは柔らかくなるはずです!」
「名案だ!」とでも言いたげに立ち上がった唯我に苦笑する。唯我は名前が以前は太刀川隊だったということを聞いてから定期的に名前を勧誘していた。
S級になったのは上からの指示なので「無理だよ」と言うとがーんっ!と目に見えてショックを受ける。前回も前々回も同じやり取りをしたのに、彼は毎回大きなリアクションを取ってくれる。もうリアクション芸人にでもなったらいいのに。
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