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二宮隊とメイク詐欺

「あ、辻くん」
「……!!!」

誰だ。

見知らぬ女の登場に、辻はぴきゅっ!と何かの魔法にかかったように動かなくなる。一瞬だけ見えた顔がどこかで会ったような気がしたが、確認するには顔を見なければならない。

しかし、残念ながら辻は女性の顔をまじまじと見つめられるような男ではなかった。すなわち女性の免疫がすこぶるなかったためただただ怯えるという自体に陥った。

「辻くん?」
「、はい、」

つまりながら返事をした辻に、女が首を傾げる。そのまましばらくじっと辻を見て、辻は生きた心地がしなかった。やめてくれ、そんなに見ないでくれ。覚えていなかった自分が悪かったからどうかこんなに近くに来ないでくれ。心の中で謝り倒した辻だったが、女は別に普通の友人相手くらいの距離感である。言うほど近くは無かった。

「……ああ!」

合点がいったのか、女は古典的にもぽん、と掌を拳で叩いた。そして「私だよ、名前」と、とある知り合いの女性と同じ名前を言った。

「…………えっ」
「えってなに。別人だとでもいいたいの」
「別人っていうか詐欺……」
「は?」

「いえなんでも」と口を閉ざした辻に「失礼な子だねまったく」と名前が口を尖らせた。いやだって、辻は心の中で反論した。ほとんど詐欺だろうこんなもの。

かわいいは作れる!なCMよろしく今の名前は普段と比べものにならないほどに可愛らしく飾られ、更には髪型だってきちんとセットされていた。しかも服は普段は着ないような、メイクを邪魔しない清楚で可愛らしいシフォンワンピース。気付けというほうが無理がある。

「急にどうしたんですか。普段は特にしていないでしょう」

「いやね、」と名前はいきさつを話した。自室で数人のオペたちと遊んでいたら、国近が「名前もメイクとかすれば〜?」と言いだし名前にメイクをし初めたらしい。そうなるとそこは女の子同士、始めれば熱も入って来てみんながこれはどうだあれはどうだと色々と遊ばれているうちにこんな結果になってしまったらしい。

「他にいけにえを差し出すことで部屋から出ることを許されたんだよね。私の部屋のはずなんだけど」

「多分いまごろ木虎ちゃんが超絶美人になってると思う」という名前の言葉に辻は女子ってやっぱ怖いと少し思った。先ほどまであんなに緊張していたはずだが、中身は名前だとわかった途端「いいんじゃないですか」と素直に褒めることが出来た。

「似合ってますよ」
「でも普段からこれしてても、トリオン体になったらすっぴんだよ? その落差を見るの怖いからこれからもすっぴんで行こうと思う」
「単に面倒くさいだけですよね」
「まあそれもあるけど」

辻も確かに、普段からこれだったら少し緊張するからやめてもらいたいなと思ったため「名前さんは普段の方がいいですよ」と言うと「辻くんめっちゃモテそう」という返事が返って来た。何故だ。







「どうせなら鳩原ちゃんと氷見ちゃんもいけにえに差し出そう」
「その言い方どうにかならないんですか?」
「だって本当にいけにえに出された気分になるんだよ。辻くんも一度メイクしてもらうといい」
「絶対いやです」

辻の発言に名前は「美人さんになると思うんだけどな」と残念そうにしていたが、そんな女子に取り囲まれる状況は絶対にごめんだし、なぜ普通に自分が女装を受けると思っているのだろうか。二宮隊の作戦室に着いて「お邪魔しまーす」と名前が入ると作戦室内がぴしりと固まった。

「……誰?」
「揃いもそろっていい加減にしろよ」

犬飼は「うそうそ、似合うじゃんどうしたの」とさらりと褒めた。これがモテ男か、と辻が感心していると鳩原は若干挙動不審に「ど、どうしたの。具合でも悪いの」と名前の精神面の心配をしていた。

「具合は悪くないよ。ところで鳩原ちゃんと氷見ちゃん私と一緒に来ない? 綺麗になれるよ」
「わあ、なんか町中で怪しげな詐欺をする人みたいな台詞」
「なんだと。お前もいけにえにしてやろうか」
「いけにえ?」

犬飼が首を傾げているとうぃーんと扉がまたも開いた。そこにはここの作戦室の隊長さんがおり、その人物は見たことのない女を見て、じっと目を細めた。

「……なにしてるんだお前、詐欺か」
「なんで誰一人として初めから褒める奴がいないんだ」

「もうぐれてやる」と名前が喚きだしたのを「まあまあ」と犬飼が抑えた。だが手元にはカメラ機能の機動した端末があったのを、名前以外の人間は見逃さなかった。







「犬飼貴様」
「えへっ」
「後輩でも女子でもない犬飼にされると心が冷える」
「真顔やめてくんない」

同級生グループラインにて、「理想と現実」という言葉と共にぎゃいぎゃい騒いでいたときの写真と、その後落ち着いてきてすました顔をした写真が送られていたのを突き付ける。ぽこんぽこんと来た通知は「詐欺か」「なんだこれ誰だ」「一枚目素出てるぞ」という実に胸に刺さるコメントたちであった。

「せっかくメイクしたんだからみんなに見せないと勿体ないかな〜と思って」
「よけいなお世話だわ」

ぽこん。また新たに来た通知に名前がまた来たかと悲しみの表情で見る。その顔も悩まし気な美人に見えて犬飼は「本当に詐欺だな」と心の中で思ったが、それを言っては多分殴られるので黙っていた。

「あ、」

突然の声に、犬飼はどうしたんだと思ったが、自分の携帯にも来ていた通知を見て納得した。画面には「いつもの名字のほうがいいな」という村上からの通知がきていた。

「褒められた。よし犬飼、許してやろう」
「名字は本当現金だなー」

「俺も普段の名字のほうがいいと思うよ」と犬飼が言うと「犬飼のは村上くんにのっかっただけだから駄目」と言われてしまった。別にそういうわけじゃないけど、と思ったが、それを言うと面倒くさいのであははと笑い声だけで返事をした。

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