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二宮さんと初対面

黒トリガーの適合者は、開発室が探した結果名前一人だけだった。太刀川隊でも十分能力を発揮しているが、一人だけともなると彼女が黒トリガーを使う以外に選択肢はなかった。

「でもそのトリガー、確か射手用じゃなかったっすか?」

出水がちゅーとジュースを飲みながら名前と共に忍田を見上げる。ここは太刀川隊の作戦室。名前にあらためてS級隊員になるように言いに来た忍田は「そうだ」と出水の言葉に頷く。

「名前には、射手として一から訓練してもらう。目安としては、半年」
「半年!? 無理無理、忍田さん買い被りすぎてる」
「そっすか? 先輩ならいけそうですけど。何なら俺教えましょうか?」
「あ、そうか。出水くんに習うことになるのか。よろしくです師匠」

射手として十分な技術を持っている出水なら、何も問題はない。名前はてっきり出水に習うものだと思いさっそく頼んでいると「いや」と忍田が否定した。

「上層部で話した結果、二宮くんに習ってもらうことになった」
「ああ。二宮さんか」
「二宮さん?」

納得したらしい出水だが、名前は知らない名だったようで聞き返した。今のところそういった名前の人には会っていなかった。

「射手としても、個人ランクもトップの隊員だ。きちんと考えて動くタイプだから指導者に向いてると思ってな」
「確かに俺より向いてそうっすね」
「出水くんのお墨付きか……それは強そうだ」

名前はまだ見ぬ二宮を想像して、ムキムキなレイジのような人物を思い浮かべた。出水は何となく察したのか「そういうタイプじゃないと思いますよ」と苦笑した。

▽▼▽

「話は通してある」そう言った忍田を信じ名前は噂の二宮の下を訪れようと二宮隊の作戦室があるエリアにやってきた。ここに来てからまあまあ経つが、普段来ない場所で少しわくわくする。

しかし、だ。普段来ない分、言われた部屋がどこだかわからずウロウロする。

太刀川隊ではパスを打ち込んで入室するのだが、他所様に行った場合はどうするのだろうか。玉狛には出入りしているが、あそこにはパス等ではなく一般の家のようにインターホンを押して入れて貰っているので勝手がわからなかった。

「……おい」

低い声に反応して振り向くと、スーツを着た背の高い男性がこちらを見ていた。というより、その人の威圧感も相まって見下げられていたようにも思えた。

「そこで何をしている」

隊員らしからぬ格好の男の登場に名前は「えっ」と驚く。ボーダーの事務員なのだろう。間違って事務局付近に来てしまったらしい。

「ま、間違えた……」
「は?」
「作戦室のとこに行こうとして、迷いました……」
「……」

男は呆れた、という目でこちらを見た。今度こそ本当に見下げられている気がする。

「……どこの作戦室だ」

呆れた様子だったが、男は道は教えてくれる気でいるようで名前はほっとした。悪い人ではないらしい。

「二宮隊の作戦室に行こうとしたんですが」
「……二宮隊の作戦室ならここだが」

目の前にあった部屋を視線で教えられ、「あ、そうなんですか?」と驚く。なら何故こんなところに事務員がいるのだろうか。

「うちに何の用だ」

うち? と疑問に思いながらも「二宮さんに用がありまして」と伝える。男はぴくりと眉を顰め名前を見た。え、何?と名前が口元を引きつらせる。

「二宮は俺だが」
「えっ」


▽▼▽

「……」
「……」

無言で目の前に座る男から一生懸命に視線を逸らした。二宮は名前をじっと見たままだ。

先ほど事務員と思った男が二宮だとわかり名前は「え、あ、えと、師匠!」とわけのわからない挨拶をしてしまった。それに対し二宮は特に何も言わずに作戦室の扉を開けた。完全にスルーされた。

「お前の件は聞いている。黒トリガーの適合者なんだってな」
「は、はい」
「本部長は半年でお前を使えるようにしろと言っていた。が……そんな生ぬるいことをするつもりはない」

二宮はずっと名前から視線を外さない。名前は「何でこんなに見てくるんだ怖い」と思いながら話を聞いていた。

「3ヵ月だ。3ヵ月でマスターしろ。俺はお前にそれ以上の時間を割く気はない」
「3ヵ月!?」
「ああ」

名前が騒いでも二宮は特に表情も変えずに「今日から始める」と言って訓練室に入った。

「早くしろ」

動かない名前に対し苛ついたように二宮が言う。名前もまた二宮に対し「この野郎」と思わないでもなかったが、教わる立場なので仕方なしに訓練室に走った。

▽▼▽

「んおおおおお二宮このやろおおおお」
「荒れてんな」
「荒れてますね」
「二宮さん厳しそうだもんねぇ」

太刀川隊に戻ってきた名前は机に突っ伏して涙を流しながらじたばたするという器用なキレ方を見せていた。太刀川と出水と国近は触らぬ神に祟りなしと名前を遠巻きから見ていた。

「何なんだよあの鬼畜イケメン野郎が……!」
「名前、文句になってないぞ」
「文句言うほど欠点ないんだよおおお完璧人間めええ!!」

二宮はムカつくことに頭も良ければ戦闘も強く、しかも教えるのもうまかった。が、厳しいことには変わりなく名前は連日出される二宮の宿題に追われる日々を送っていた。

名前は元々銃で相手の動きを制限して剣で仕留める戦法を主にしている。狙った的に当てる練習はほとんどしておらず、元来の大雑把な性格もあり、さらには精密性に荒のある射手用トリガーに絶賛大苦戦中であった。

「……国近ちゃん訓練室に敵出してもらえる?」
「りょーかーい」

小走りで国近がパソコンに近付き、カタカタといじる。名前は力なく「ありがとー……」と言い訓練室に消えていった。

「にしても、あいつも真面目に出された宿題やってんのな」
「何か二宮さんだとサボるとバレそうな気がするらしいっすよ」
「それはそれは……でもちょっとわかるな」

太刀川は同級生の厳しい目つきを思い出して苦笑した。二宮は真面目な上に目ざといため、太刀川が課題は大丈夫と嘘を吐くとすぐにバレてしまう。それを考えると案外名前の見立ては当たっているなと思った。

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