そのまえ | ナノ
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えー!?入れ替わってるぅー!?

本部にて、とある男を発見した名前は、そろりと背後から男に忍び寄った。男の肩をトントン、と叩くと、その男が振り返る。ぷにっ。あらかじめ名前が突き出していた人差し指に、男の頬が突かれた。

「荒船くーん、お、は、よ」

にやーっと笑って挨拶をする。驚いた顔をした荒船は、名前の姿を確認すると「ああ、名字おはよう」とそのまま挨拶をしてきた。「!?」その反応に、名前がざざっ!と後ろに下がった。

「……?、??」

驚く名前をよそに、荒船は「どうした?」と尋ねてきた。それがさらに名前の警戒心を煽り、「ど、どうしたはこちらの台詞ですよ……」と眉を寄せた。

「な、なんすか荒船さん。具合でも悪いんすか」

え、なんで。疑問気な荒船に、なんでもなにもないだろうと名前は思った。名前のちょいイラ挨拶になんの反応も見せないなんて、もしかするとどこか調子が悪いのかもしれない。そう思って言ったのに、荒船は不思議そうな顔をするだけだった。

「あ、あれか? 前回の課題あまりに私ができなかったのがそんなに腹立ってるのか? あれはマジですまんかった。そして今回もわからなかったから教えてほしい」
「えっと……別に、怒ってないぞ?」
「いやあの、もう謝るからその何にも怒らない反応をやめてください……逆に怖い……」

自分で自分の体を抱きしめて怯える名前の言葉に、荒船は「あの……だから……」と困ったように何かを言いかけた。しかしそのとき、名前は奥に見えた村上の姿を発見し「あ、村上くん!」とその言葉を遮った。

「あー……えっと、名字」
「ちょっとちょっと村上くん聞いてちょうだいよ、荒船さんったら怖いのよ。なんにも怒んないの」

「やっぱ荒船課題で怒ってんでしょ」と名前が荒船に言う。課題、その単語を出すと、ぴくっと何故か村上が反応した。「……課題で、なにか怒らせるようなことしたのか?」村上がそう聞いてきたことにあれ、なんで村上くんが?と少し思った。

「前回酷かったからねぇ。今回も酷かったけど」
「どこだよ」
「えーなんだっけ、ぐにゃぐにゃのとこ」
「ルートかよ。またか」

「そうそう」と返事をしたとき、名前は違和感を感じた。はて、そういやどうして村上にぐにゃぐにゃで通じたのだろうか。村上にこの範囲の質問に行ったことがあっただろうか。というか、いま、またかって、言った?

「え……っとぉ」

だらだらと冷や汗をかきながら、名前はもしかして……と自分の中で生まれた疑問を口にした。

「君ら、入れ替わってない?」





「トリガーの不具合……って、」

んなベタな。名前の言葉に「本当なんだからしょうがねぇだろ」と村、いや荒船が言った。話が長くなるということで、一同はとりあえずラウンジに集まっていた。

2人が言うには、荒船が試作のオプショントリガーの性能を見てみようと起動してみると、そのトリガーが不具合を起こし、近くにいた村上とトリガー設定が入れ替わってしまったそうだ。なんだその無差別テロトリガー。

「てことは荒船が村上くん巻き込んだってことじゃん。ちゃんと謝った?」

名前が荒船に向かって言うと、「名字。おれが村上」と返された。「えっ。あ、ああ、そっか。なにこれややこしい」見た目は荒船だが、村上くん。ううん、むずい。

「トリガーも解除できねーし開発室に解除してもらいに行ったら「マジすかやばいっすね。データ欲しいんで一日このままでお願いします」、と」
「ひどいな開発室……」

開発室のいつも実直にトリガー研究に精を出すところは本当に尊敬するが、たまにこういう研究意欲に巻き込まれるパターンがある。名前は「まあ君らの頑張りがいつか実るはずだから……」とどうしようもない二人にフォローを入れた。

「ところでさぁ、その試作トリガーってどれ?」
「そんな目ぇ輝かせたやつに言えるか」

めちゃくちゃほかの人間巻き込んで入れ変わりそうな名前に荒船が言った。こいつに与えたら余計な事をしかねない。「ちっだめか」名前が不満げにつぶやく。

それよりお前、と荒船が出来なかったというプリントを出すように言う。どうせ今日はもう一日このままでろくに個人ランク戦なんかできやしないのだ。でも村上くんが暇じゃない?と村上を気遣うと、「おれも荒船から離れられないしな」と苦笑された。





「違う」ずばんっ!と堂々と斬ってきた荒船にひい!と名前が悲鳴をあげた。

「いいかおいコラ、聞いてたかさっきの」
「そ……その顔で怒るんじゃないよ!」
「今はこの顔でしか怒れねぇだろうが」
「やめろ! お前はいまお前であってお前じゃないんだよ!」

荒船に怒られるのはまあ、いつものことである。もう慣れた。だけど村上の顔で村上の声で怒られるのは、ダメージの度合いがもう全然違った。なんかもう端的につらい。それを伝えると、「お前がちゃんとやれば済む問題だろ」と言われてしまった。くそう、そのとおりだ。

「悪いな鋼、もうちょっとこのバカに付き合ってくれ」

村上が「ああ、大丈夫だ」とうなずく。名前はそれに対し、「やめてくださいー、村上くんはそんなこと言いませんー」と荒船に文句を言っていた。

「なあ名字。一回、わかるとこまでやってみないか?」

そしたら荒船も、どこがわからないのかわかりやすいだろ?村上の言葉に、「おお!」と名前が納得する。いつもわからなくても怒られるのがいやで無理くり解いていたが、確かにそのほうが互いにいい。荒船もそのほうがいいなと頷いた。

「うーん……じゃああの、ほい」
「……お前、手順2つ目くらいでもう詰まってたのか」

荒船に言われ、「ま、まああの……はい……」と名前が視線をそらした。だからその顔で渋い顔をしないでくれ、胸に刺さる。ここはな、と荒船からの解説に「こう?」「違う?」と名前が聞いていく。

「おお!」

できた! 荒船の解説のあとに次の問題をやってみると、問題をきちんと解くことができた。「まあ、合ってるな」荒船に頷かれやったー!と一問解けただけなのにすべてが終わったように名前が喜んだ。村上も「よかったな」と名前に笑った。

「名字も頑張ってるんだから、やればちゃんとできる」

だから他の問題も頑張ろうな。そう言うと、名前が驚いた顔をしていた。「どうした?」と村上が聞き、荒船もなんだ?と名前を見た。

「や……や、やめてください!! 荒船くんはそんなこと言いません!そんな優しげに微笑みません!!」

応援したのにやめてくれと言われた村上が「えっ」と言う。名前は名前で、「こわい、なにこれ、すごいこわい」と怯えていた。

「応援されたはずなのに相手が荒船なだけですごくこわい。あんな純粋に笑えたの、あんなやさしい表情筋あったの」
「どういう意味だてめぇ……」
「だっ……だから村上くんの顔でてめぇと言うんじゃないよ怖いだろうが……!」
「だいじょうぶか?」
「ひいい……やさしいのもこわい……」

なにこれ、どっち見てもどっちもこわい。やだなにこの空間こわい。怯える名前に、「あのなぁ……」と顔は村上の荒船が呆れた。

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