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師弟、写真を撮る

「今回二宮さんを呼び出したのは他でもありません」わざとらしい態度できりっとかっこつけた名前に「いいからさっさと要件を言え」と二宮が眉間にしわを寄せた。

ここは二宮隊作戦室。名前に待ち合わせをされた二宮はとりあえず来たはいいものの、要件を知らされていなかった。「楽しくない人ですねー」と文句をたれながら名前が一枚の書類を取り出す。

「今回は遊びじゃありませんよ。根付さんからのしっかりとした依頼ですからね」

そう言って渡されたのは、広報部からの書類。二宮はその内容を軽く読み、「写真?」とさらに顔をしかめた。

「なんか、隊員同士での師弟で写真撮ってほしいらしいです。ホームページとボーダー内掲示に使うんですって」
「……」

黙った二宮に「いやそーですね」と名前がははと笑う。名前もこの企画を聞かされたときは、「これ二宮さんいやそうだな」と思った。写真にポーズなんてとるタイプでないし、笑顔とかすごいいやそう。というか二宮が笑うのなんて、本当にレアである。

企画の目的は、ホームページ掲示はボーダーへの好感度アップ。もう一つの目的は、正隊員へのC級隊員の意識変化である。

正隊員とは距離が遠く感じることがあるらしいので、こうした身近な掲示物は意外と効果があるのだ。C級の中には誰かと師弟関係になることが思いつかない隊員もいるので、そうした隊員に積極的に指導を受けに来てもらうことも目的である。

「まあまあ、別に笑顔でーとかポーズこれでーとかは言われてないんで、さくっと撮っちゃいましょ」

二宮は嫌そうだが、正式なものとあっては断れない。端末で撮って送ればいいだけだそうなので、少し遠くに携帯をセットして、たったか走って二宮の横に名前が戻る。

ぱしゃり。携帯の音にまたたったか走って名前が撮れているか確認する。しかし、それを見て名前がぴしりと固まった。何も言わなくなった名前に、「撮れてなかったのか」と二宮が聞く。

「い、やぁ……撮れてはいたんですけど……」

釈然としない名前の態度に二宮が端末を覗き込む。なんの問題もなさそうなそれに、首を傾げた。

「なにか問題があるのか」
「もん……だい……」
「……おい?」
「……足」
「あし?」
「足が、長い……」

小さく言った名前の言葉に、はあ?と二宮が言う。それに対し、名前がすごく苦々しい顔で二宮を見上げた。

「足、だって二宮さん、と、私の足、これ、うそ。これはうそ」
「なにがうそなんだ」
「いやだってなにこれ……スタイル悪く見える……」
「悪いだろ」
「さすがに殴りますよ?」

めちゃめちゃ真顔でなんて奴だ。そんな真顔だと本当みたいじゃないか。いやうそ。こんな足短くないやい。

ふう、と名前は二宮に向き直る。落ち着け、ここで取り乱したら本当みたいじゃないか。うそうそ、あれはなんかこう端末のあれがあれでうそ。

「二宮さんと並ぶとまるで私のスタイルが悪いように見えるので、トリオン体で足20センチくらい削ってもらえますか?」
「ふざけるな」

冷静に言ったのに、二宮に冷静に断られた。「なぜそんなくだらないことで設定を変えないとならない」「くだらないとはなんですかくだらないとは」ぐいぐいと来る弟子に文句を言う二宮だが、弟子だって引けない。このままではこの画像がネットの波に流されてしまう。そしてあれ、もしかしてあいつ足短いんじゃ……?といういらぬ噂が広がってしまう。

なかなか受け入れない二宮に名前がぐぬぬ、と顔をしかめる。なんて奴だ。弟子がどう思われてもいいというのか。心の中で文句を言っても、この状況を打開する術はない。どうする、どうすればいい。

「……あ!」

自撮りでいきましょう!ひらめいた、という顔をする名前に「じどり……」と二宮がつぶやく。これならスタイルは関係ない。だって上半身しか映らないし。ああよかった、と名前が胸をなでおろす。

「はい、じゃあ自撮りモードにして……あ、二宮さんここですよ。ここ見るんですよ」

ここよここ、と画面上の黒丸を指さす名前に「一度言われればわかる」と二宮が渋い顔をした。

「いやぁ、二宮さん地味に流行おくれなところあるからカメラ知らないと思って」
「……お前が言うからやってるんだろ」

「へーへー悪うございますよ」と名前が適当に返事をして、カメラに向かって笑う。ぱしゃり。今度こそ送るべ、と名前が撮れた写真を確認した。

「……」またも渋い顔をした名前に、「……どうした」と二宮が一応聞いた。

「二宮さんってそういや顔も良かったですね……なんか腹立ってきました…………」

顔のアップだと並んだ顔の偏差値の違いがはっきりとわかって名前が溜め息を吐く。言われた通りにしたのに不満そうな弟子に「さっきからなんなんだお前は」とお師匠は綺麗なお顔で文句を言った。


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