「もう良い、行くぞジョゼ。飯は外で食う!」
ジョゼの手を引いてジャンは食堂の入口へと進む...が、それは適わなかった。
「待ちなさい!またそうやって二人でラーブラブして!!ジョゼ、貴方本当にお嫁にいけなくなりますよ!?」
サシャがジョゼの腕をはっしと掴んで行かせなかったのである。
食べ物以外に彼女がここまで執着を示すのは珍しい。
....それだけ、普段のジャンとジョゼの仲睦まじさ...というのは、誤解を招く程のものだったのであろう....
「嫁なんか行かなくていいんだよ。第一こいつはな、オレがいなきゃ駄目なんだっての」
サシャからぐいとジョゼを剥がして自分の元へと引き寄せるジャン。彼女の体はその胸へとすっぽり収まった。
「昔は二日に一日は一緒に寝ないと眠れなかったんだぞ?今だって昼寝はオレの傍だ。結婚なんかして離れたりしたら不眠症になっちまう。
食事もオレといるからよく食べるんだ。さもなきゃ骨と皮だけになるぞ?
聞けよ?座学だってオレの隣にいるから集中できるんだ。でなきゃこいつが成績上位に名を連ねられる筈が無い。
更に言えば風呂だってな、「うわあ駄目駄目駄目」
ジョゼは必死でジャンの口を塞いだ。
........周りは、ジャンのシスコンぶりにドン引きしていた。
「という訳でだ、ジョゼはオレがいねえとなーんもできないんだ。嫁になんか行かせたら一日で死んじまう。だから一生オレの傍にいりゃ良いんだよ」
「お前...それ、自分で言っていて恥ずかしくならないのか....?」
マルコがあまりの事に顔を真っ青にさせながら突っ込む。
「......ジャン、気持ち悪いです......。」
流石のサシャも本気で蔑んでいた。
「ジョゼ、そいつの傍にいるとヤバいですよ、本気で嫁にいけなくなります!!」
サシャがジャンの胸の中からジョゼを奪い返しながら、「大急ぎで旦那候補を見つけて下さい!こんなシスコン馬野郎よりまともな奴はいる筈です!」と食堂に居合わせた不幸な男性たちを示す。
「....じゃ、コニー」
「オレは怖い顔の嫁はごめんだ」
ジョゼはその光景をぼんやり見つめた後、適当に近くにいたコニーに声をかけたがそれは却下された。
「........じゃ、ライナー」
「うわあ何故俺を」
「ライナーだったら天井の雨漏りを脚立無しで直せるかな...と」
「そんな便利屋みたいな理由で!?」
「それなら何故僕を選ばない」
ベルトルト推参。
「ベルトルトは....嫌だよ。意地悪だし。」
「僕の遠回しの愛情表現に気付かないなんて」
「.....遠回さないでよ.....。」
「ジョゼ、大好き。」
「ちょっと気持ち悪いね。」
「我が儘な子だね。」
「普段の言動を振り返ってみよう。我が儘はどっちかな」
「うーん....、ジョゼ。」
「......ベルトルトってちょっと頭悪いよね.....。」
「この口かこの口が言うのか誰が君に勉強教えてやってると思ってる」
「痛い痛い頬が伸びる痛い痛い」
「あ、これって所謂DV?」
「嬉しそうに言わないの。そして君とドメスティックになった覚えは無い」
「その通り。ただのバイオレンスだ。」
マルコがベルトルトの手をジョゼから引っ剥がした。反動でよろめいた彼女をしっかり支えてやるのを忘れずに。
「ベルトルトはジョゼの事をいつも粗雑に扱って....。彼女が可哀想だ。」
そのままベルトルトから遠ざける様にジョゼを自分へと寄せた。それをベルトルトは冷めた目付きで見る。
「.....そうやって点数稼ぎして...。優等生の君らしいよ....」
ベルトルトはひとつ溜め息を吐いて言った。
「そういうんじゃ無いよ...!君だって構って欲しいばかりにこんな子供じみた事を毎度毎度....!!」
反論するマルコの耳には朱色が差している。
「そりゃあ君は将来そうなりたいんだろうね.....。だから今、そんなにムキになってるんだろ」
「ちがっ....、いや、違くはない....けど」
「でもさあ......僕、それ、凄い嫌なんだ。」
ベルトルトの黒とマルコの枯茶の瞳が交わり、重たい沈黙が辺りにわだかまる。
一触即発の空気だった。
「わ」
しかしそれはジョゼの間抜けな声に中断された。
「おいお前等!!何勝手に話を進めてんだ!?」
ジャンがマルコの腕の中から引っ張り出したジョゼを抱える様にしながら二人を睨みつける。
「第一なあ、てめえ等にこいつをやるとは一言も言ってねえし、どこの馬の骨とも知れない男にジョゼをやれるかって話だよ、分かってんのか!?」
「馬は君だろ」
「言うと思ったよこん畜生!!」
「成る程」
ジャンの凄まじい剣幕を中断する静かな声が響いた。
ミカサはジョゼを抱えるジャンの元へと真っ直ぐに歩き、自然な動作で彼女の手を引いて、自分の胸へと収める。
何も出来ず、ジャンは唖然としてその光景を見るしかできなかった。
「.......お前....一体なにを」
ジャンが理解不能と言った様子で尋ねれば、ミカサはジョゼを抱く手にきゅっと力を入れる。
「貴方は今、どこの馬の骨とも知れない男にジョゼはやれないと言った。ならば女であれば問題無いと言う事」
淡々とそれだけ告げると、ミカサは踵を返して歩み始めた。ジョゼの左手をしっかり握りながら。
「「「いやいやいやいやいやいやいやいや」」」
一拍置いて、我に返った三人が急いで彼女達の後を追う。
「......お、おんなのこ同士なんていけない事だと思いますっ....!それに貴方にはエレンがいるでしょう!?」
サシャもそれに続く。しかし予想外の展開に頭と体がついていかないらしく、盛大にずっこけてしまった。
「.....エレンは家族、そしてジョゼも家族になる。.....家族が増えるだけ、問題無い」
「君の謎理論に僕はついていけません!?」
マルコが珍しく大声を出して突っ込んだ。
「第一そうするとオレも家族という事にうわあ嫌な顔をするな傷付く」
ジャンは膝折れて涙を流した。
「違うよジョゼはミカサの家族じゃない僕の暇つぶしの為の道具だ」
ベルトルトは相変わらずマイペースだった。
「ミカサ、今はジョゼの誕生日を一緒に過ごす男性を選んでいるんですよ!?女の子は駄目で「ごめんミカサ....。君とは次の休日に遊ぶので良いかな....」
その時、周りの惨劇を静観していたジョゼがサシャの言葉を遮り、口を開いた。
そしてミカサの隣から地面に手を付いて項垂れていたジャンの元に戻って手を差し伸べる。
ジャンは呆然としながらも彼女の手を取り、立ち上がった。
「兄さん、日が暮れちゃうから....行こう?」
「お、おう....。」
「二人の誕生日だもの。今日は一緒が良い...。」
「..........。」
少しの間....そして.....勝利を確信したジャンは、マルコとベルトルトに向かってひたすら気持ち良さそうに\ざまあ/という表情を見せた。
「オレは信じていたぞ、ジョゼ....!!さっすがオレの妹だ」
そう言いながら嬉しそうにジョゼの髪を掻き混ぜる。
「ジョゼがオレを選んだんだからな、これで文句ないだろう?」
ジャンは得意げに言い放つと、あっという間に自分の所為で鳥の巣状の髪となってしまった妹の手を引いて、食堂から出て行ってしまった。
残された面々は....やはりあの兄妹はできているのではないか...と噂する多数と断じてそんな事は無いと必死で訴える約3名が喧々諤々としていたという。
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