「あー...ひどい目にあった」
ジャンがジョゼの一歩前を進みながらぼやく。
「そうかな...皆仲良しで良いな、って思ったよ。」
「お前は目に石でもつまってんのか」
うだうだと話をしながら既に高い位置に来てしまった太陽の下を歩いていると、いつの間にかジョゼがジャンの隣に並んでいた。
(こいつもいつか本当に嫁にいくのかなー...)
自分と瓜二つ...けれど、やはり性別の差が現れている横顔を眺めながら思うと、胸の内が重たくなる。
その重みを紛らわす様に手を差し伸べると当然の様に握り返された。....その際に瞳をじっと覗き込んでくる仕草は昔から変わらない。
「.....誕生日だ。」
ふと兄の口から呟かれた言葉に、ジョゼは少し首を傾げる。
「誕生日だけは必ずオレと過ごせ。......一生。」
握り、握られた右手に力をこめて言えば、ジョゼは少しした後、こっくりと首を縦に振った。
「......勿論だよ。約束だから....。」
そのまま、静かにジャンを見据える。
「......約束?」
ジャンは不思議そうにジョゼを見つめ返した。
春の済んだ日差しが柔らかく降り注ぎ、彼女のグレーの髪を暖かに染め上げている。
「覚えて、ないか.....。」
ジョゼは小さく零した後、薄い雲の上の太陽に向かって目を細めた。
「.......何の事だ」
ジャンもまた同じ様にしながら尋ねる。
「ううん、良いの。今日....また、同じ約束ができたから。それで充分。」
太陽からジャンへと視線を戻したジョゼが淡く笑った。
「兄さん...行こう?今日はずっと一緒にいてね」
そして兄の手を引いて少し早足になりながら歩き出す。
顔は見えないが、ジャンには分かった。ひどく嬉しそうにしているに違いない。....無表情ながらも。
そして...自分も、同じだった。ジョゼが嬉しいと自分も嬉しく、悲しいと自分まで胸が支える。....これも、昔から変わらない事だった。
「お前は....本当にオレの事が好きなんだなあ....」
呟けば、ジョゼが振り返る。....予想通り、とても幸せそうだった。
「うん.....大好き。」
いつも通りの答えが返ってくる。
「.....オレもだよ。」
隣に並びながらそう言えば、途端に頬を朱に染めて目を伏せてしまった。
........言うのは良い癖して言われるのは苦手なんだよな....こいつ。
それが可愛かった。.....そしてひどく、手放したく無くなった。
なあジョゼ。言わないだけで、オレの方が...お前よりもずっと、お前を好きなんだよ。
だから、一緒に過ごす時間が何よりも大切だと思う。
.....今までも、これからも....。
――――――
『お前はなあ、オレの誕生日だってのにまーた近所の年寄りの手伝いに行くのか』
『.....でも、前から約束してたし....』
『やかましい。オレの誕生日だぞ。言う事を聞け。』
『私も誕生日だけど....』
『......お前さあ....暇があるとカナリアか年寄りの世話ばっかじゃねえか』
『......寂しいの?』
『寂しい訳ねえだろ』
『そうだね。兄さんは私と違って友達沢山いるし....』
『....それとこれとは違うんだよ』
『そっか......。......分かった。』
『は?』
『来年から、誕生日は絶対兄さんと一緒にいる。』
『........お、おう』
『だから、兄さんも.....将来、お嫁さんをもらっても....誕生日だけは私と、......過ごして。』
『え....』
『約束....してね。』
『仕方無えな、約束してやるよ.....。』
はるか様のリクエストより
サシャの提案で結婚(仮)をすることになり、だれが主人公の旦那になるかでの熱き戦い...というお話。落ちジャンで書かせて頂きました。
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