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離したくないハナシ

ご飯を食べ終えて昼休みの余った時間を雑談しながら過ごそうとしていたのに、私の隣にぴたりと寄り添って座るキヨくんがスカートから指先を潜り込ませて太ももを撫でてくるから、その手を止めるのに必死で会話が全く話が耳に入ってこない。
ご飯を食べている時に古森くんと話が盛り上がっていたのが気に食わなかったらしい。
……私の意識が完全に自分に向いた事が分かったキヨくんは撫でるのを止めて指を絡めてきた。


「でさー佐久早……、って聞いてる?佐久早ぁ?」
「…………(名前)ちゃん呼ばれてる」
「えっ、どう聞いてもキヨくんでしょ?」
「(名前)ちゃんも佐久早になる……決まった未来だから今から返事したって変じゃない」


平然と言い切ったキヨくんに私もだけれど、話しかけた古森くんも何も言えなくなった。
今から返事しても……ってどう考えても佐久早って呼ばれて私が普通に返事するのはおかしいからね。
そう思ってキヨくんに視線を向けたら瞬きを数回した後、きゅっと眉間にシワを寄せた顔を近付けてくる。
寄せられる顔に手を当てて小さくガードしたら、ムキになったキヨくんがさらに近付こうと力を込めてきた。
顔にキヨくんの癖っ毛が当たってくすぐったい。


「あー……佐久早って結婚にこだわるよな」
「当たり前だろ。法律的に(名前)ちゃんが俺のものになるんだ。こだわるに決まってる」


頭と腰に回った腕に引き寄せられ、キヨくんの胸元に収まった。
もぞもぞと動いて離れようと思ったら、私の頭を手で押さえつけて顔を寄せてくる。
首筋から伝わる心音とキヨくんの匂いについ安心してしまって……教室だという事が頭から抜け落ちてしまったらしい私は甘えるように背中に腕を回していた。
しばらく心音に耳を傾けていたら、だんだんと聞こえてくるざわめきにココがどこなのか思い出して顔が上げられなくなった。
……離す気がないのか、私に回るキヨくんの腕は弱まる事を知らない。


「俺、目の前で何見せられてんの?」
「見せてねぇ」
「じゃあ他所でやれよ!」
「…………」


そっと首を傾けてキヨくんを見上げたら、動いた私に気が付いて視線を合わせてくれた。
正面から見つめようとゆっくり体を動かせば、その分だけ距離を詰めてきたキヨくんに唇を塞がれた。
リップ音を残して離れた唇をぼーっと目で追ったら、自分の唇をぺろりと舐めたキヨくんの姿を見てしまって顔に熱が集中する。
机の向こう側から古森くんの「だからさぁ!」って言葉が聞こえて私は両手で顔を覆うしかなかった。
キヨくんが覆う手を剥がそうと手首を掴んできたけれど、私だって必死に力を込めているんだから簡単に外されたら困る。


「古森のせいで(名前)ちゃんが顔見せてくれなくなった。ずっとこのままだったらどうしてくれるんだ」
「ゼッタイ佐久早のせいだと思うよ……」
「俺のせいなワケないだろ」


……キヨくんのせいだよ、こればかりは。
今ばかりは早く時間よ過ぎ去れと念じるしかない。
でもチャイムが鳴るよりも先に顔から手が外されるんだろうな。
だって力が強すぎる……。



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