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大切な双子に愛を込めて……

朝練に体育に……と、ずっと体を動かせばお腹が空くのは当たり前で、早弁もしていたからか持参したお弁当だけじゃ今日は足りなかった双子が購買に行ったタイミングで角名くんがニヤリと見てくる。
「そういえばこの間の双子の誕生日どうだったの?聞き忘れてたんだけどさ」って聞かれた。
私に聞いた方が面白そうだからって理由で双子が離れる時を待っていたらしい。
双子の誕生日、か……。


* * *


「(名前)、あと数分で俺の誕生日やで!」
「……うん、知ってる」
「ぎゅーってして!(名前)に抱き締められたまま誕生日迎えんねん!」
「……オイ、なんでお前だけ(名前)に抱き締めてもらおうとしてんねん。俺も誕生日やねんけど」


狭いベッドで双子に抱き締められながら日付が越える瞬間を迎えようと頑張って起きようとはしていたんだけれど、双子の体温があまりにも温かくてに微睡んでいたらツムくんのはしゃぐ声が私を起こしにかかる。
聞こえてはいるんだけど、眠さから言葉が上手く出てこなくて返事がまったりしてしまう。
後ろからサムくんの不機嫌な声も聞こえた時には足に絡んでいた双子の足が互いに蹴り合い始めていた。
頭上も足元も賑やかだったんだけれど、どうしても眠さには勝てなくて……。
寝やすい体勢を求めて目の前の胸元に擦り寄ったらぎゅうぎゅうに抱き締められた。


「(名前)がかわええ!……あぁ、アカンて!寝んといて!もうじきやから!」
「なぁなぁ(名前)こっち向いてや。なんでツムばっかやね……!やっとかわええ顔、俺に向けてくれたなぁ……ちゅーしよ」
「ん゙んっ……す、きにして……」


寝苦しさから逃れようと向きを変えたら唇を塞がれて息がしにくくなった。
……あ、れ……いま何、時?
どうにかして重たいまぶたを持ち上げれば、目の前に広がる顔。
サムくんだ……。
そしてぼんやり聞こえるアラーム。
熱い舌が唇を割って入って絡まる。
息苦しさから腕を伸ばして助けを求めた。
指先に当たったシャツを握り締めたらさらにぴったりと密着する体。
それから下唇を吸われ顔中を次から次に吸い付かれている感覚。


「んっ……」
「(名前)とちゅーしたまま迎えた誕生日、最高やん……(名前)好き、めっちゃ好き」
「はよ離れろや……って力強いねん!(名前)潰す気か!なんでお前引き離してる間に誕生日迎えなアカンのや!」


だんだんとはっきりしてくる意識と双子の声に、ハッとして勢い良く起き上がろうとしたけれど出来なくて……。
目の前を見たらサムくんと視線が絡んだ。
ちょんっと鼻先がくっついて、それから隙間なくぴったりと合わさった唇。
ゆっくりと離れたサムくんは蕩けたような笑みで見つめてくる。
起き上がろうと動いたら、するりと腰に移動した腕で抱き着いたまま太ももに顔を埋めてきた。
寝起きのふやけた意識のまま甘えてくるサムくんの頭を撫でながら隣を見たら、恐ろしい形相のツムくんがそこにいた。
……目が合った瞬間、一気に目が覚めた。


「ツ、ムくん……」
「…………なんや」
「えっと、その……私、寝ぼけて、た?」
「俺をほったらかしてサムと楽しそうに誕生日迎えとったわ……今もやけどな」


指摘されて、サムくんの頭を撫でていた手を慌てて顔の横まで持ち上げた。
太ももに顔をいまだに埋めているサムくんは撫でられなくなったのが不満なのか顔をぐりぐりと押し付けている。
ツムくんと無言で見つめ合っていたら横から腕ごと抱き締められて、肩におでこを乗せられた。
近くなった距離にそっと顔を覗き込もうとしたら首筋に顔を移動させたツムくんもぐりぐりと頭を押し付けてきた。
横からも下からも名前をずっと呼ばれている。


「ツムくん……お誕生日おめでとう」
「……もっと俺を喜ばせる事言うてや」
「いつも一緒にいさせてくれてありがとう……ツムくん大好きだよ」


バッと勢い良く顔を上げたツムくんと目が合う。
無言で伸ばされた手が後頭部に回って胸元に引き寄せられた。
きつく抱き締められてツムくんの頬が私の頭にすりっと頬擦りをする。
体勢を少しずらして背中に腕を回したら「俺も大好きや……でも今日は愛してる言うてほしい」って言われて見上げたら、私の様子を伺うように見ているツムくんがそこにいた。
ちょっと驚いた……そんな顔を向けているとは思わなかったから。
背中に回した腕に力を込めて、ちゃんとツムくんの目を見つめる。


「ツムくん……あ、」
「(名前)〜俺にはおめでとうと大好きはないんか?」
「何邪魔しとんねん!今は俺の番やろ……お前人に優しく生きるんちゃうんか!?」
「人でなしが何言うとんの」


言いたい事を伝えたサムくんが太ももから顔を上げたまま上目遣いに見てくる。
じーっとただ見てくる。
でもその目は明らかに「俺には言うてくれへんの?」って訴えかけている。
苦笑いをしながら横目でツムくんを見れば、さっきよりもすごい形相になっていた。
……そっとサムくんの頭に両手を置いて顔を太ももに戻させる。
「俺にも言うてや〜」ってくぐもった声が聞こえるけれど、ちょっとだけそのままでいてね。
ツムくんに顔を向けて「来て」って唇だけ動かせばちゃんと伝わったのか、顔を寄せてくれた。
おでこを合わせて、そっと見つめる。
空気に溶けそうな程の小さな声で呟いた。


「…………ツムくん、愛してるよ」


それから……恐る恐る顔を傾けて、唇を合わせた。
私から双子にあげられるものなんて、もう言葉と行動しかないもの。
私自身も、私の時間も双子にせがまれてとうの昔にあげちゃったから、もう双子のもの、らしいし……。
静かに離れたらツムくんの唇が追ってきてまた合わさった。
普段のツムくんからは想像出来ない、ただ触れるだけのもの……それでも私を見るツムくんの表情はどこまでも優しかった。
いまだに太ももに押さえたままだったサムくんから手を離せば、顔を上げて私とツムくんを怪しむように交互に見てきた。
不貞腐れた感じで座るサムくんに手を伸ばせば、すぐさまその手を取られて頬擦りをしてくる。


「……(名前)、俺も祝ってや」
「サムくん、お誕生日おめでとう。大好きだよ」
「もっと俺になんか言うて」
「昔から隣にいさせてくれてありがとう。これからも一緒に過ごせたら嬉しい」


いつも双子がしてくれるみたいに触れている親指でサムくんの目元を優しく撫でれば、目を細めてさらに手に擦り寄ってきた。
隣に移動してくるサムくんを見ていたら、双子から抱き締められる。
体に回る腕にそっと触れれば力が強まって頬から首筋に滑った唇が次から次へと押し当てられる。
くすぐったさから身をよじったらツムくんが私の喉を唇だけで薄く挟んで吸い付いた。
サムくんは耳たぶを口に含んでちろちろと舐め出した。
……そして不穏な動きをする双子の手。


「(名前)愛してるで」
「うっ、ん……私もだからっ」
「今日はいっぱい愛してるって言うてな?」
「わかった、言うからっ……待っ、て」
「「(名前)ン事、好きにしてええんやろ?」」


――……それで結局あまり寝れなかったんだよなぁ。
あの日にあった出来事なんて言える部分は少なくて、思い出して恥ずかしさから唇を尖らしながら角名くんを見れば色々と察したのか「あー……やっぱ(名前)に聞いて正解」って言葉を残された。
その顔はニヤニヤと楽しそうだ。
その視線から逃げるようにそっぽを向きながら残りのお弁当を食べていたら、徐々に聞こえてくる双子の話し声。
ドアの方を向けばちょうど教室に入ってくるところで、バチッと目が合った。


「(名前)帰って来たで〜!」
「ただいま(名前)」
「おかえりなさい」


ひらひらと手を振る双子に返事をすれば、嬉しそうに駆け寄って来た勢いのまま抱き締められて、頬にちゅーされた。
機嫌がいいのは分かるんだけれど、なんでちゅーされたのか分からず驚きから固まっていたら私が動かない事を良い事に顔の至るところに唇が落ちてくる。
その合間に「好き」って単語が何度も聞こえてきた。
顔を左右に緩く振って唇から逃れようとしたら双子がそれを許してくれるはずもなく、それぞれの手が頬に伸びて私の顔を自分の方へ向けようとするから両頬が潰れる。


「手ぇ離せや。(名前)とただいまのちゅーすんねんから」
「ツムが離せや。俺が(名前)とちゅーすんねん」
「「…………ハァ!?(名前)は俺におかえり言うたんやで!」」


頬にある手を外そうとして指先を握ったらすぐさまその指先が私の手を掴んだ。
……双子が望むのなら「おかえりなさい」くらいちゃんとそれぞれに言うのに。
でも今そんな事を言ったら止まらなくなりそうだから双子が落ち着くのを待つしかない。
……あぁ、でも。
誕生日を迎えて歳を重ねても変わらない双子との日常に今は感謝する事にしよう。



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