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隠すより現る

「遅れました!すみません……すぐに準備しま、す……?」


日直の仕事をサムくんと終えて、職員室への提出はやるからとサムくんを先に体育館へ行かせたまでは良かったと思う。
……でもその職員室で先生に捕まったのは予想外だった。
ジャージに着替えるのは後回しにして、制服のまま体育館へ駆け込んだら、いつもより人が多かった……というか外部の方?
謝りながら入ったから、皆の視線が一斉に集まる。
双子と、その双子と話していた外部の方が私を見て「あっ!」と声を発した。


「おーおー、やっと来たなあ!宮んズのお姫さん!」
「……監督すみません、遅れました。えっと、聞きたい事は色々あるんですけれど……あー、あの方たちは?」
「あれや!月バリの記者や!」
「あ、取材……今日でしたか」


監督と話していたら、ツムくんが真っ先に走り寄って来た。
持っていた荷物はベンチに置かれて、ブレザーとリボンが取られ……ツムくんが自分のジャージを私に着せて、ファスナーを上まで引き上げた。
しかも満面の笑みを浮かべているツムくんに頬を両手で挟まれてぐりぐりされた……。
終わるのを待っていたら、後から来たサムくんが私の腰に腕を回して、ドリンク作りを催促しながら水道の方へ連れて行こうとする。
……今日の双子、何か変だ。
外に出た瞬間、サムくんが思いっきりため息をついた。


「なんでツムのジャージやねん」
「断る間もなく着せられたんだよ……ねぇ、何かいつもと様子違う気がする。月バリの記者が気になる?」
「気になるっちゅうか……撮られんやったら(名前)と写ってる方がええやん。でも(名前)単体で写されたらアカンねん。かわええから見た奴らにオカズにされる。だから守らしてな?」
「…………う、ん」


何とも頷きにくい話題だった。
サムくんはお腹に腕を回して肩越しにドリンク作りを見ている。
体育館に戻らなくていいのか聞いたら「もうちょっとだけ」と、サムくんはその場を動かない。
粉を入れ終えたボトルに水を入れていたらサムくんに目隠しをされて、水があふれ出る音が聞こえたから慌ててボトルを持ち上げる。
……見たらツムくんのボトルだった。
望んだ結果になったんだと思う……鼻で笑うサムくんの声が聞こえたから。


「これでジャージの件は言葉通り、水に流したる。あ、作り直さんでええから……これだけ今持ってこ」
「ツムくん怒るよ……だってそれほとんど水だよ?」
「それで十分やろ。月バリに載る(名前)が自分のジャージ着とるんやで?全国に(名前)は俺のもんですってアピールしとるやん……あ、俺のジャージに着替える?」
「これ準備したら自分のに着替えるよ?」


拗ねた表情をしたサムくんだったけれど、体育館の中から呼ばれる声が聞こえて戻った。
……本当にツムくんのボトル持って行っちゃうんだ。
皆のボトルをカゴに詰めて持ち運んだ時、体育館の中から「うっすー!?なんやねん、これ!ただの水やん!」って叫ぶツムくんの声が聞こえてきた。
入り口から覗くと、ツムくんがサムくんを指さして色々言っている。
でも、その喧嘩の原因がドリンクの薄さで、ボトル片手に言い合っている双子の姿がなんだか平和に見えて……入り口でカゴを抱えたまま笑ってしまった。


「(名前)!俺のドリンク、これもう水なんやけど!」
「外まで聞こえてたよ。サムくんがそれだけ持って行ったから怪しくて飲まないかと思ったんだけど」
「(名前)が愛情たっぷり入れとったって悔しそうに言うて渡したら意気揚々と飲みおったで、アホツム」
「……たっぷり入ってたのは水だったね。予備でちゃんと作り直して来たから交換ね」


私がいない時に、1年が準備してくれていたタオルの横にドリンクを補充をして、これで一通り揃ったから……着替えられると思ったのに、それに気が付いたツムくんに何度も釘を刺された。
ジャージひとつに必死だなぁと、くすりと笑えば屈んで目を合わせて笑いかけられる。
見つめていたら、後ろから両手で頬を掴まれてぐいっと上を向かされた。
犯人はサムくんしかいないんだけれど、今日は部活中のスキンシップが多い気がする。


「(名前)がおってくれて良かった。これからも隣におってな?」
「なに俺から(名前)奪ってんねん……雑誌に一緒に載るんは俺やで」


……後日、取材された時の月バリが学校に届いたらしい。
それを監督から受け取った双子が休憩中に読もうとして、皆がその周りに集まり出した。
……皆が一緒にいるところ見るの好きだなぁ。なんて思いながらモップがけをしていたら、双子の大絶叫が体育館に響き渡った。
驚いて双子に目を向けると、なぜか双子が私を凝視していた。
あ、違う……皆が私を見てる。今はあの輪に近寄りたくないんだけれど、行くしかないよね。


「何かありました、か?」
「ちょっ、(名前)、なんやこの写真!?」
「写真?2人と一緒にいる時に撮られたやつ?」
「1人で写っとるんやけど……」
「「あまりにも可愛すぎるやろ、これ!?」」


双子に突きつけられた雑誌を手に取り、そのページを見ると確かにそこに写っていたのは私で、誰が見ても楽しそうに笑っている。
しかも写真の横には大きく見出しもあった。
――……これぞまさに天使の笑顔!高校バレー界最強ツインズを支え続ける、幼馴染みマネージャー!
恥ずかしすぎるでしょ、これ。
無言で雑誌を閉じたけれど、双子がすぐにまたページを開いた。


「これ、全国に売り出すのアカーン!(名前)可愛すぎるやん!」
「なぁなぁ、なんでこんなに笑ってるん?」
「え、なんでかな?…………あ、多分あれだ、2人がドリンクで喧嘩していた時だと思う」
「俺らが(名前)を笑顔にしてたんか……」
「怒ってええのか、喜んでええのか分からへんやん!」


……月バリが発売されてから、角名くんがスマホでSNSを見せてくれたけれど、双子と同じくらい話題になっていたみたい。
それよりも……、写真を切り取って眺めている双子に喜んでいいのか分からないんだけれど。



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