×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


インターハイの思い出

「……ん?(名前)なんや落ちたで」
「え、あ!ありがとう!」
「写真?……ってこれIHのやつやん。持ち歩いとったんか」
「だって嬉しかったんだもん!……この時ね、もっと尽くさなきゃって思ったの」
「俺に?」
「それもだけど、皆に!」


ツムくんも手元の写真を覗き込んだ。
写真の中には涙で顔がぐちゃぐちゃになりながら笑っている私を中心に、私を抱き締めている双子と……笑いながら囲むスタメンの姿。
この時、私の腕にはツムくんがこのIHで1番なんだと証明したベストサーバー賞の盾が抱き締められている。
――……あの日の事は鮮明に思い出せる。
稲荷崎が優勝する事を信じて疑わなかったし、決勝で負けてしまった時は涙が出た。
もちろん試合内容も覚えているけれど、それでも私にとっては、この切り取られた場面が最高の思い出としてずっと残るんだと思う――……。


* * *


「…………っ」


ボールが床に落ちた。
相手チームに加わる点数、鳴り響くホイッスル……。
この瞬間に、稲荷崎の負けが決まった。
ベンチまで歩いてくる選手の姿を見て、私もようやく動き出す。
ボトルを回収している時に、手の甲が濡れ始めて……それを見て私がいま泣いている事を知った。
袖で拭おうとしたけれど、袖を見てツムくんのジャージを着ていた事を思い出した。
だから、バレないように必死で指先で拭っていたら腕を引かれて誰かの胸元に押し付けられる。


「目え赤なる……擦ったらアカン。せめて袖で拭けばええやろ」
「……でもっ、これツムくんのジャージ」
「分かっとるて。俺が着せたんやから」


頭と背中に腕が回りきつく抱き締められて、涙が止まらなくなる。
それでも、応援席へ挨拶に行かないといけないから、いつまでもこうしている訳にはいかない。
顔を上げると、ツムくんと視線が交わる。
頬に残った涙をその手に拭われて手を引かれた。
応援席からはたくさんの拍手と賞賛の声が届くけれど……余計にそれが悲しくなる。
移動するからとツムくんに引かれた時、反対の手はサムくんに握られた。


「あ……サムくん、の、ジャージ」
「ええから。表彰式終わるまで穿いとって」
「うん……じゃあそうする」


表彰式が始まり、私は荷物を抱えて監督たちと端に移動した。
進行していく式をただ見つめる。
個人賞の発表になり、アナウンスで呼ばれた名前を聞いた瞬間、止まっていた涙がまたあふれ出てきた。
――……ツムくんが、ベストサーバー……!
ぼろぼろ泣き出す私を見て監督たちが笑い出す。
その後、稲荷崎が2位のメダルと賞状を貰っている時も涙が止まらなかった。


「(名前)どんだけ泣くねん!干からびてミイラになんで」
「だって監督……ツムくんがっ!ベストサーバー、獲りましたぁ……!」
「侑がベストサーバー貰うん見るの初めてやないやろ」
「そうですけどっ!やっぱりなんか嬉しいんですよ〜」


語彙力なくなってるとか色々言われたけれど、嬉しくてしょうがないんだもん。
……式が全て終わった時、脇目も振らず、ツムくんがこちらに走ってくるのが見えた。
抱き着かれて視界が真っ黒に染まったと思えば、次には体を持ち上げられ、くるくると回された。
床に足が着いた瞬間、満面の笑みで盾を持ったツムくんと目が合う。


「IHは2位やったけど、俺がこの大会で1番のサーバーやったで!」
「うん……うんっ!表彰見てた」
「(名前)と獲ったベストサーバーや……!あーもし優勝しとったら絶対いま(名前)にプロポーズのチャンスやったやん」
「この雰囲気だったら、うんって言っちゃいそう」
「ン゙ン゙っ!2位で言うてもカッコつかへん……あ、せや。(名前)これ持って!」


ぐっと押し付けられたその盾を慌てて抱える。あまりにも突然の事で涙がぴたりと止まった。
そのままツムくんはメダルも私の首にかけ出した。
その後に遅れてやって来たサムくんは、この姿を見て同じようにメダルを首にかける。
……え、なんで?
頭上にハテナがたくさん浮かぶ。
そんな私などお構いなしに盾を抱えたままの私をツムくんは抱き締めて頭に頬を寄せた。
サムくんも腰に腕を回して顔を寄せてくる。


「あの……、え?」
「戦ってたんは選手だけやないやろ……(名前)も俺らとおんなじやと思とるからツムは(名前)にメダルかけたんとちゃうの」
「せやで!いつもバレーボールに集中出来んのは(名前)のおかげやもん」
「……なら、俺らのメダルも(名前)にかけてやらんとなあ」


北さんの言葉に、皆が次々と私の首にメダルをかけていく。
その時に感謝の言葉も添えるから、感動して泣いてしまった。
お礼を言おうとしたら、泣きすぎたせいで上手く喋れなくて、皆に笑いながら心配された。
ここにいれる私はとても幸せなんだと思う。
……だったらこのチームのために、他に何が出来るだろう。
もっと何か出来る事があるなら、とことん尽くしたいと思ってしまう。
それに、次は、次こそは――……。


「――……頂点で皆の笑顔が見たいな」


写真を見ながら当時を思い返していた私の小さな呟きは、隣にいるツムくんが見事に拾っていた。
肩を引き寄せられて、唇が塞がれる。
顔を覗き込むように屈んだツムくんがおでこを合わせてきた。
ずっとIHに思いを馳せていたからか、今のツムくんは……刺激が強い。
目が至近距離で交わった瞬間、ニヤリと笑った表情に心臓が跳ねる。


「次こそは俺らが頂点や。そんで(名前)に最高の景色を見せたるから」



|



MAIN | TOP