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駆け回る

「おーええタイミングで職員室おるやん!」
「こんにちは監督、何かありましたか?」
「これ今日の練習メニューなんやけど信介に渡しといてほしいんや。会議で少し遅れんねん」


職員室まで回収したノートを届けに行ったら、次は監督に捕まった。
……今日は頼まれる事が多いな、そういう日なのかな。
昼休みは始まったばかりだし北さんが教室にいればいいんだけど。
他学年の教室に行くのはあまり得意ではないから緊張する。3年の階を歩いていると、やっぱりここにいる下級生が珍しいのか視線を感じて早く立ち去りたいのが本音。
後ろのドアからそろりと覗いて北さんを探してたらドア付近にいた先輩と目が合った。


「あ、あの……」
「あっ!男バレのマネちゃん!?近くで初めて見たわ〜」
「え、ほんまやん!」
「小っこくてかわええなあ!どうしたん?お菓子でも食べるか?」
「えっ、いや、あの北さん……を」
「あんま俺らのマネ怖がらせんといて。がっつきすぎやで」
「おっ、大耳さん……!」


知らない先輩方に囲まれて少し困っていたら大耳さんが間に入ってくれた。
しかも手を差し伸べてくれただけでなく北さんまで呼んでくれて、囲まれていたのに私に気付いてくれた大耳さんには感謝しかない。
廊下に顔を出してくれた北さんに監督から預かった練習メニューと会議で遅れる旨を伝える事が出来て、やっと監督の手伝いが完了した安心感でへにゃりと笑ってしまい慌てて顔を戻す。
その様子を大耳さんに見られて「お疲れさん」って頭を撫でられた。


「なぁ用事終わったんならマネちゃん紹介してやー!」
「こんな時くらいしかチャンスあらへん!」
「……チャンス?」
「せやで北!今は鉄壁の絶対防御が発動してへん!」
「ああ……なるほどな」
「大耳さん、あの、どういうことですか?」
「(名前)はちゃんと教室まで信介に送ってもらい?それが安全やから」
「えっ?一人で帰れます、よ?」
「せやな……廊下におる人らにも声かけられた(名前)が真っ直ぐ教室に戻れるとは思えへんわ。俺を呼ぶ事さえ出来へんのに」
「そ、れは……すみません」


スタスタと教室に背を向けて歩き出した北さんを見て、大耳さんたちに頭を下げて急いで追いかける。
申し訳ないからって断ったら多分さっきよりも強烈な北さんの正論パンチが飛んで来る気がするからここはもう素直に甘えさせてもらおう。
実際、北さんと歩いていても話しかけられて少しびっくりした。
終始、背中に隠れながら自分の教室に戻って来たんだから北さんと大耳さんの言う事を聞いといて良かったと思っている。
教室まで送ってくれた北さんに何度も頭を下げていると、教室から伸びてきた腕に捕まって私の体が横に傾いた。


「(名前)今までどこ行ってたん?帰り遅なるなら連絡……え、北さん?」
「サム!何いきなり走ってんねん!あっ(名前)やっと帰って来たんか〜待ちくたびれたで……って北さん!?どうしたんですか」
「……鉄壁の、絶対防御……これのことか……」


ドアでちょうど隠れていた北さんに気付かず、教室内から飛び出して抱き着いて来た双子はかなり驚いている。
北さんも目の前の様子を見て何か納得した表情をしているけど、鉄壁の絶対防御って双子の事だったんだ……。
確かに双子といる時って、バレー部以外に話しかけられた事ないかも。
そっと両隣を見るとすぐさま視線に気付いた双子が顔を寄せてくる。
頬にそれぞれちゅーされた。


「確かにこれやったら、(名前)に話かけられへんな。あいつらが言っとったチャンスって意味、ようやく分かったわ」
「……俺らがおるって分かってて(名前)に近付いた奴がおったんですか」
「(名前)、何もされてへんよな?何かあったから北さんにここまで送ってもらいましたちゃうよな?」
「一人で行動してんのが珍しい言って、俺の教室で絡まれてはおったけど」
「なら言っといてください」
「二度と(名前)の隣から離れないので先輩方が話しかけるチャンスは金輪際ありませんって」


双子に手を掴まれて壁に押し付けられる。
そして約束させられた。手伝いでも何でも絶対に俺らに声をかけろ。一人で行動するな。周りの人間は誰でも疑ってかかれ、と強く言われた。
北さんは「……口出しはせえへんけど、(名前)の気持ちくらい聞いても遅ないと思うで」と残して帰って行く。
言われた事も一理あると思ったのか双子は少ししょぼくれてしまったけれど、心配してくれている気持ちも伝わったから双子の言葉に素直に頷いた。


「気を付けるね、ちゃんと」
「せやで。(名前)はほんまにかわええから男は狙っとんで!俺ら以外は皆ケダモノや!近付いたらアカンで」
「俺らだけ構ってればええやん。他の奴に時間使わんとって……ツムも十分ケダモノやと思うけどな」


申し訳ないけれどお世話になっている先輩の友人と知り合いになっている時間より、やっぱりずっと一緒にいる双子との時間の方が大切だと思ってしまう。それは天秤にかけるまでもなく……。
過ごして来た時間の影響力は本当に絶大だ。



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