夢のあとさき
64

サイバックへ向かう道すがら、私はリフィルとコレットに私がレネゲードの元にいた間の話を聞いていた。ミトスのことのように知らない情報があって混乱してしまうのは避けたい。
しかし聞いてみると私がいない間にいろいろと起こっていたことが分かった。リフィルとジーニアスの出生の話や、どうしてテセアラからシルヴァラントに移動できたかの謎も解けた。プレセアの妹の話とリーガルの過去などは本人たちが話してくれて、これまでの言動からも納得のいくものでもあった。
「そうか……。話してくれてありがとう」
一緒に旅をするにあたって共有しておいたほうがいい情報――といっても、それぞれ個人的なものでもある。それを共にいなかった私にも話してくれたことに感謝を告げる。
私への信頼はロイドのおかげでもあるのだろう。ロイドを信頼しているから、ロイドが信頼している私にも個人的な事情を明らかにしてくれる。その信頼に応えるように頑張らないと。
「レティさんは……レネゲードにいる間、どうしていたんですか?」
プレセアが遠慮がちに見上げて訊いてくる。私の方はそんなドラマチックなこともなかったけど、と肩を竦めた。
「心をなくしていたと言っても、何もできなかったわけではないからね。最初はただ軟禁されてたけど、しばらくしたらユアンの手伝いをさせられてたよ」
「ユアンの……?!それって……」
ジーニアスが驚いたように私を見る。私が敵であるユアンの手伝いをしていたというのがショックだったのだろうか。
「機械の操作をしたりだとか大したことではなかったけどね。自分の意志で動いていたわけじゃないし」
「そうね、コレットがそうだったようにレティも心を失っている間は自分の意志で動けなかったんでしょう」
「そだね〜、あれ、なんだか気味が悪いよね」
同じ経験をしたコレットが表情を曇らせる。私は苦笑した。
「まあ、マナの守護塔でちゃんと戻れてよかったよ」
「なんで戻ったんだろうね?」
「さあ……」
ジーニアスの問いかけについ言葉を濁してしまう。クラトスと戦っていたら戻った――というのはコレットのときとあまりにシチュエーションが違いすぎて言いにくかったのだ。
幸いそれ以上突っ込んで訊かれることもなく、別の話題に移っていった。

サイバックの資料館で分かったのはミトスの仲間がかつて同じ病気にかかったこと、ユニコーンの角が治療に必要ということだけだった。ミトスの仲間――マーテルはミトスとどんな関係だったのだろう?マーテルと決まったわけではないが、そうそうこの病気になる人はいなさそうなので間違いではないと思う。
とにかく、リフィルがボルトマンの術書から得た知識では現状治すことができないと分かっているので、これ以上詳しい資料を見つけなければ話にならない。
「ボク、ミトスやカーラーン大戦の資料の大部分は、テセアラ王室が編纂して保管してるって聞いたことがある」
ミトスは資料館のことといい、勇者ミトスの資料に詳しいようだ。オゼットのはずれで暮らしていたと言っていたが……、それ以前になにか学んだことがあるのだろうか。
「確かに……カーラーン大戦時代、王室とミトスはいろいろ因縁があったみたいだからな」
「メルトキオね。教皇の息がかかっていて危険だわ」
「この際ぜいたくは言えないよ」
しいなの言う通りだ。王室が編纂しているというのなら、忍び込んででも情報を得るべきだ。そうならないのが一番なんだけど。

私たちはミトスと別れてメルトキオに向かうことになった。まだメルトキオの門は閉鎖されていて、再び下水道から街に侵入することになる。
もうすぐで街に着くといったところで何か人の声が聞こえてきた。こんなところにいるのはやましいところがある人間に違いないと警戒する。
「これが代金だ」
「確かに。へへ……」
「あとどれくらいで国王はくたばる?」
物騒な話が聞こえてきて私は息を詰めた。国王が死ぬ、いや、殺される?それは大罪なのではないか。
「この毒ならあと一ヶ月ってところじゃねぇか」
「病死に見えるようにという注文だからな。ゆっくりだが確実に死ぬ毒だ。もう少し辛抱するように教皇さまにお伝えしてくれ」
そう言う男には見覚えがあった。鉱山ですれ違ったヴァーリという男だ。プレセアにエクスフィアを渡し、彼女の妹がリーガルに殺されることになる原因を作ったのもあの男だったはず。それが国王の暗殺にまで関与しているとは。どこまで腐っているのかとふつふつとはらわたが煮えくり返る思いだった。
「ははーん、なるほど。あの健康優良体の国王が、病気だなんておかしいと思ったぜ」
声を潜めてゼロスが言う。彼らはまだ私たちに気がついていなかった。
「ロイド、どうする?」
「決まってる。ここで国王を助けておけば……」
「恩が売れるわね。行きましょう」
「……どうして素直に人助けって言えないのかねぇ」
しいなが呆れたように肩を竦めるが、今回は王室に借りを作っておいた方がスムーズに事が運ぶのだ。リフィルの言い方も仕方ない。
姿を現した私たちにヴァーリと教皇の部下は慌てたが、彼らの武力は大したことがない。怒れるプレセアとリーガルの手によってヴァーリは打倒され、私たちは教皇を追い詰めるために急いでマーテル教会へと向かった。


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