夢のあとさき
58

「このあたりじゃないか?」
先を歩いていたロイドが立ち止まった。私も辺りを見回す。見取り図だと魔導炉への転送装置は――ああ、あれかな。
「たぶん、あの転送装置じゃないかな」
「そのようだな。あの転送先が魔導炉だろう」
「分かった。急ごう!」
ロイドが真っ先に転送装置に飛び込む。次いでコレットも。確かめずに乗ってしまっていいのかと思ってしまったが、時間が惜しいのは確かだ。私は後ろを振り向いた。
ゼロスが先ほどからやたらクラトスを睨んでいたのがどうも気になるのだ。やはり今も鋭い視線をクラトスに向けている。
クルシスの人間であるクラトスへの不信感か、それとも。
「ゼロス、先に行く?」
「……いいや、レディーファーストだぜ、レティちゃん」
「はあ……わかった。喧嘩はしないようにね」
二人を残すのが不安だったが、どうせ一瞬だ。私は諦めてさっさと転送装置に乗り込んだ。
その先は心配しなくても魔導炉だった。先に着いていたロイドが制御盤へ駆けだすと、それを遮るように男が現れる。これが、五聖刃のフォシテスとやらだろう。
「そうはいかない」
「……おまえは……フォシテス!」
ロイドとフォシテスの間には何か因縁があるらしい。確かロイドとジーニアスはイセリア牧場に関わったせいで村を追放されたんだった。それでフォシテスと面識があるのか。
「……おまえがフォシテスか。死を望むならそのまま立っているがいい」
後ろからクラトスが言う。いや、挑発しないでほしいんだけど。説得と戦闘、クラトスは明らかに後者をとったようだ。
「人間風情が大口を叩くな。死ぬのは貴様だ。この汚れた大地と共にな」
「……大地が消滅しても、デリス・カーランがあると、そう考えているなら……甘いな」
「……なんだと」
「ユグドラシルが、捨て駒のディザイアンなど救うものか」
「だ……だまれ!ユグドラシルさまを侮辱するな!」
フォシテスは大地を捨てデリス・カーラーンを拠り所としようと考えているらしい。しかしマーテルを救おうとしているユグドラシルが本当にこのまま大樹を放置していいと思うのだろうか?大樹に飲み込まれてマーテルは消滅するのではないか?
「おまえらの大将ユグドラシルはそれでいいと言ってるのかよ」
「おまえがそれを問うのか?……フフ。まあいい。大いなる実りを放置することはユグドラシルさまのご命令なのだ」
フォシテスの言い方に引っかかったものの、私の考えは間違っていることは確かなようだ。マーテルはこのままでも消滅しない、大地が消えても大いなる実りはそのままということだろうか。
「……マーテルが大いなる実りと融合しているからか……。そこまでしてマーテルを護るというのか、あれは……!」
「……おまえは何者だ?ユグドラシルさまを、あれなどと……!」
クラトスがかすれた声で吐き捨てたのにフォシテスが反応する。それは私も気になるところだが、これ以上フォシテスから情報を引き出す時間も必要性もないだろう。コレットがロイドに呼びかける。
「ロイド、急がないと……大樹が……!」
「わかってる!」
ロイドが剣を取ったのに続いて、私たちも戦闘態勢に入った。
フォシテスが厄介なのはその腕の魔導銃だ。充填が必要なようだが、貯めていて急にノーモーションで撃たれると避けるのが困難だ。
そしてフォシテスの周りに浮かぶ二基の装置が放つレーザーも同じである。クラトスが真っ先にフォシテスに魔術を放ったのを見て、私は機械の方を引きつけて鞘で殴る。こういうのは斧などの重量武器で攻撃すればすぐ壊れてくれる気がするのだが、仕方ない。
装甲のつなぎ目を重点的に殴り続ける。装甲が曲がって隙間が見えたところに剣を差しこんで振り下ろすと中のケーブルが壊れたのか、バチバチッと火花が舞って機械が動かなくなった。
壊れた機械は魔導炉に蹴り落として次に向かう。どうやら、もう一つの機械はゼロスが片をつけてくれたようだ――と、その瞬間視界の端が光って見えて、私はバックステップで後ろに下がった。
「ッ!」
銃は後ろに下がってもあまり勢いが削がれない。慌てて剣とガンレットで防御するもののダメージは負ってしまった。
「レティ!……、ホーリーソング!」
「ヒールウィンド」
同時にコレットの歌声、天使術が私の体を包む。そして治癒の風も。体勢を立て直した私は素早くフォシテスの眼帯側――死角に潜り込んだ。
「空破衝!」
「いよし、虎牙破斬!」
私が浮かせたフォシテスにロイドが続けて決めてくれる。そこにクラトスが斬りかかった。
「閃空烈破!」
「う、おぉぉぉぉぉぉ!」
フォシテスの体が押し出されて傾ぐ。そのまま魔導炉に落ちていった。
戦闘が終わり、鞘と剣をベルトに戻す。そして急いで魔導炉の制御盤に駆け寄った。
「よし!これで魔導炉を止められるぞ!」
「ロイド、操作方法は?」
「……え、えーっと」
「それじゃないって、ちょっとちょっと!」
ロイドが適当なところを触るので慌ててやめさせる。最初の画面からなら私も分かる……と思うのだが、どうやって戻るんだこれは。
「私がやろう」
後ろからクラトスが言ってくるので私とロイドは制御盤の前から退いた。まあいいか、魔導炉が止められれば問題ない。
「……あんた、何でもできるんだな。剣も魔法も機械の操作も」
「人より、少々長生きなのでな」
呟くように言ったロイドにクラトスが答える。長生き、か。やはり天使はハーフエルフでなくとも寿命が延びるものらしい。
とにかく魔導炉を止めることはできたので、早くしいなに伝えて魔導砲を撃ってもらわないと。私たちは来た道を戻って出口へと向かった。


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