夢のあとさき
幕間-3

パラグラフ王廟の風の封印を解放し、ユウマシ湖で休憩したのち神子一行が向かったのはルインだった。ルインの北にはマナの守護塔がある。再生の書で示されていた光の封印はそこだろう。
ルインに着いた一行が見たのはディザイアンに破壊された町、そして神子を狙って来た暗殺者の負傷した姿だった。
一行が驚いているうちに一般人を襲ったのはパルマコスタから脱走したドアの妻で、それを追い払うしいなにコレットたちの心はいっそう揺らいでいた。
「この娘、出血がひどいな」
「本当だ。先生!こいつを手当てしてやってくれよ」
「先生、お願いします!」
「……わかりました」
リフィルは「みんなお人好しすぎるんだから」と言いながらしいなに治癒術をかけてやる。出血の止まったしいなはよろよろと立ち上がった。
しいなは礼を言った後立ち去ったが、ロイドたちはルインを見て回りため息をついた。マナの守護塔の管理者は鍵を奪われたらしく、このままでは封印を回れない。それに、町を放っておくことはコレットにはできなかった。
彼らはルインの人たちが連れ去られた人間牧場に向かうことにした。ディザイアンの装備を奪うことで無事侵入は果たせたものの、牧場の者に見つかってしまった。
ディザイアン五聖刃のクヴァル。その男はエクスフィアの残酷な真実を明らかにし、自分がロイドの母の仇であることを告げた。
「ロイド、君のエクスフィアも返してもらいましょうか」
「……も、だと?」
「君の姉のものは回収できましたからね。あとは、そのエクスフィアだけですよ」
「姉さんになにをした!」
ロイドはクヴァルを睨みつける。しかし完全に囲まれてしまっていて、一行は絶体絶命の危機に瀕していた。
そこにしいながやって来てどうにか逃げ出すことはできたが、エクスフィアの真実や母の仇、そして囚われた姉のことを知りこのまま知らんぷりできるわけがなかった。ロイドはエクスフィアをつけることにためらいを覚えたが、今これを捨てるわけにはいかないという事実に直面して決心するしかなかった。

「レティはあんたの姉だったのかい」
「姉さんのこと、知ってるのか?」
人間牧場からの脱走者がいるというハイマに向かう途中、しいなに言われてロイドは目を丸くした。まさか、コレットの命を狙っていたこの暗殺者と姉が知り合いだとは思わなかったからだ。
「ハイマで知り合ったんだよ。レティは神子を……助けたいと言っていたよ」
「そうなのか。姉さん、ちゃんと旅について行くつもりだったんだな」
しいなの言葉の意図とは異なる受け取り方をしたロイドだったが、しいなは黙っていた。そしてコレットを見る。穏やかな少女はしいなが自分を見ていることに気がついてにこりと微笑んだ。
「レティの話?」
「姉さん、無事かな」
「レティは強いもん。でも、どうして捕まっちゃったのかな?」
「……ディザイアンが攻めて来たときにルインにいたのサ。すさまじい強さだったけど、数にはかなわなくて……あたしはレティを助けられなかった」
しいなが悲痛な顔をして言うので二人は黙り込んだ。けれどコレットはすぐに顔を上げる。
「レティもあなたを助けたかったんだよ。あなたが助かったことを知ったら喜ぶと思うよ」
「そう、だといいけどねぇ」
そうでなかったら、しいなはつい考えてしまう。レティは確かに逃げろと言っていたが、言葉の通りに逃げてしまってもよかったのだろうか。後悔は尽きない。
「姉さんのことも助け出してやろうぜ。な?」
ロイドが明るく言うので、しいなは元気付けられて笑顔を作って見せた。


- ナノ -