蒼に凪ぐ【青風】
* * *
荒れ果てた野原を駆け抜ける。
漆黒の髪が揺れる。
派手な音を立てて彼は荒れた屋敷に転がり込んだ。
「・・・ちっ」
軽く舌打ちすると彼は屋敷内を見回した。
この荒れようからいって、おそらくここは無人の廃墟なのだろう。
息を殺してゆっくりと戸に手をかける。
「妖様?」
戸を開ける前に中から声を掛けられ青風はぴたりと動きを止める。
しかし、目を細めると彼は気配を伺いつつゆっくりと戸を開いた。
「ああ、やっぱりそうだ」
床に横たわる少女は薄く微笑んだ。
「人が住んでいたのか・・・」
青風の呟きに何を言うでもなく、少女は少し寂しげに微笑んだ。
「私で最後です。皆、流行病で亡くなりました」
「・・・そうか」
「あなたは・・・妖様?」
「何故、様をつける?何故、話しかける?妖は人にとって忌むべき存在だろう?」
そう言うと彼女は薄く笑みを浮べた。
「いいえ。私を迎えに来たのでしょう?」
それを聞いて青風は目を見開いた。
そっと傍らに片膝をつく。
「悪いが、俺はお前を迎えに来たわけではない。都を目指している所を妖に襲われていた所だ」[ 1/19 ] [*戻る] [次へ#]
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