03
霜惺は袖から短刀を一降り取り出す。
注意深く辺りを伺うと、遠くで悲鳴が聞こえた。
「向こうか!」
ぱっと衣を翻すと短刀を鞘から引き抜き右手に構えながら声の方へ駆け抜ける。
その後をえい鬼がついて行く。
霜惺は、必死に草木を掻き分けながら岩山を飛び越えて行く。
そして、妖を見つけると、岩を蹴って短刀を振りかざした。
断末魔を上げて切り捨てられた妖が地面に崩れる。
視界の端に切り裂かれ、血で真っ赤に汚れた着物を目にして霜惺は舌打ちした。
その時、霜惺の前方で、今まさに女の首もとにかぶりつこうとしている妖を見た。
「その娘を放せっ・・・!」
言うが早いか、霜惺は短刀で妖を切りつけて娘を腕に抱く。
そのまま自分の胸に顔を向けさせ、辺りを見えない様にする。
鈍い音を立てて妖が地面に倒れた。
恐らくもう既に目にしているだろうが、辺り一面血の海だった。
所々、岩や木に女物の着物の切れ端がぶら下がっていた。
人はもう既に食われた後だろう。
その光景を見て、霜惺は歯噛みした。
そして、珍しい事に無意識のうちに胸に抱く女性を抱く腕に力が入っていたことに霜惺は気付いてはいない。
「霜惺」
「何だ?」
「生きていたのは一人だけか?」
霜惺は答えない。
恐らく葛藤しているのだろう。
己の無力さに。
「・・・ああ」
どこの邸の姫かは分からないが、生きていたのは彼女一人だけだった。
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