08



「危ないとは・・・いったい」


不意に、和葉はこちらを仰ぎ見ると妖艶な笑みを口許に浮かべた。


「さてーーーもう遅い。これから忙しくなる、そろそろ休んだ方が良い」


まだまだ疑問はあるが、暗にこれ以上話す気はないということだろうと結論付けて菘は一礼してその場を下がらせてもらうことにした。


階段を上り和葉の部屋を通りすぎ、隣に並んだ自室に入ると菘は布団を敷いてうつ伏せに倒れこんだ。


なんだか酷く疲れた。


我ながら無防備だなと思うが、横になったことにより心地よい睡魔が誘ってくる。


いざとなったら体が勝手に反応する様に鍛えられている。


今日くらいはいいだろうか、と考えているうちにうとうとしてきて彼女はそのまま寝てしまった。





* * *





翌朝、菘が目覚めると布団の中だった。


「え・・・」


何故?と思ったが直ぐにもしかしたら和葉様がしてくれたのかもしれないと思たら急に恥ずかしくなった。


菘は起き上がり、頬を赤く染めると布団をつかみあげて顔を埋めた。


恥ずかしい。


昨日はたまたまとはいえ疲れて布団の上に突っ伏してしまった。


途中で寝苦しくて帯を緩めた様な気がしないでもない。


不意に帯が気になって布団を勢いよくめくる。


「・・・・・・」


何故か帯はしっかりと、しかしきつくない程度に結われていた。


気になる。


これは気になるが誰にも聞けない。


白蛇は女性に対して恥ずかしいとかは無さそうだが今はいないし、蒼詠もいない、朔・・・ではないだろうと思うと、やはり残るは和葉だけなのだ。


きっと戸が開いていて冷えるだろうと思い閉めに来てくれたのだろう、そして床の上に突っ伏して寝ている自分を見つけ、布団に入れてくれたのだろうと菘は思うことにした。


そして己の行いを恥じた。


ふと、菘は顔を上げる。


「いけない!今日はお客様のお世話を仰せつかって・・・!」


慌てて支度をすると菘は階段を掛け下りて台所に向かった。


「すみませんっ!遅くなりました・・・!」


「遅い!」


慌てて台所へ駆け込み頭を下げると、朔にびしっとしゃもじを向けられた。


左手に茶碗を右手にしゃもじを持って釜の前に立っているのを見るにもう朝食は作り終わってしまったらしい。


「依頼主はまだ寝てるから先に食べちゃって。俺は食べたら出掛けるから」


「は、はいっ!」


「全く・・・まだ信用したわけじゃないからね。昨日はちょっとさすがにいきなり可哀想かなって思ったから今日、様子見に顔出すことにしただけだから。勘違いするなよ」


ぶっきらぼうにそう言いながらご飯をよそった茶碗を菘に差し出す。


それを受け取りながら菘はくすりと笑った。


「優しいんですね」


「なっ、なにさ!誉めたって騙されないからな!」


顔を真っ赤にして照れる朔がなんだか可愛く見えて菘は笑った。


「はい、ふふっ」


「わ、笑うな!」


朔が取り乱す度に頭の上の方で一つに束ねられた髪が揺れる。


その髪の色は黒みがかった銀。


和葉も銀髪だが朔のとは違う色だ。


どちらかというと和葉の方が透き通るような金色で月明かりに照らされると輝いて見える。


以前銀狼だと聞かされたのを思いだし、この髪色から菘は狼を連想した。


まだ幼さが残る面差が自分より年下に見えるが人間に例えると60くらいなのだと聞いた。


やはり、妖の血を引いていると長生きなのだなと思ったのを覚えている。


「・・・姫さん、悪いけど土間はお客が使ってるから部屋で食べてくれる?」


朔は少し気恥ずかしそうに目をそらして言う。


「はい、わかりました」


「じゃあ、俺は行くから。そこの器を使って配膳して」


目線だけで棚を指すと朔はたすきをほどいて台所を出て行ってしまった。




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