「皆一斉に飲もう。その方が分かりやすいでしょ?」

前回までのあらすじ的なもの。
俺達はサンドリヨンで定期的に行われているお茶会に招かれていた。招かれているという表現は、もともとサンドリヨンに所属している俺にしてみればおかしいのかもしれないが、この茶会の主催はサンドリヨンの二代目頭領である灰音さんなので、この茶会のメンバーはサンドリヨン全員というわけではなく、外部からの客がいることも多々ある。
俺は灰音さんに気に入られているらしく、毎回のように灰音さんが作る手作りの洋菓子を頂いている(そりゃもう頬が落ちるほどおいしい。本当は独り占めしたいところなのだが、それだと茶会の意味がなくなってしまう。夜に二人きりで何かと囁けば頂ける気もするが、大人気ないので行動には移していない。俺は灰音さんより年下だけど)。注いでくれる紅茶も香りがよく、上品な灰音さんを体現したような、雰囲気の合ったアレンジティーが毎回もてなされる。これ以上の贅沢はない。
問題はそこではない。このお茶会に、あの男が来てしまったのだ。

「いえお兄様、ロシアンルーレット方式なら、順番を決めて一人ずつ飲んでいくのが妥当じゃなくて?」
「急にお嬢様っぽくなったね灰音、でも実際そうだね、せっかく『ロシアンポーション』と名付けたんだ、ロシアンルーレットに沿って展開したほうがそれっぽいか」

『ロシアンポーション』。いかにも恐ろしい響きだが、ルールはいたってシンプル。ロシアンルーレットの薬品版だ。前回居合わせた方はわかるかもしれないが、この男、薬剤師の資格を持っている正真正銘の理系なのである。灰音さんの実兄で、名前は幸田縁。俺は縁さんと呼んでいる。
そんな彼が考えたろくでもない遊びこそが、この『ロシアンポーション』なのである。縁さんが予め作ってきた無味無臭無色透明の薬品。それを試験管にいれ、他の試験管には水を入れているそうだ。全部が薬品である可能性は縁さんなので否定できないが、自身も飲むようなので、自らリスクを負うことはしないだろう。縁さん曰く、『大丈夫。媚薬とかじゃないよ、海音寺君』らしいが。何で俺にそんなピンポイントなところを言ってくるのだろうか(自覚はあるけれど)。でもむしろ媚薬じゃなく、体に毒でもなく、縁さんから見るに面白い薬なんて、どんな薬か想像がつかない。まさか急に露出したくなる薬とか、猫耳が生える薬とかじゃないだろうな。自分で言っていてもなかなか気持ち悪い。

「じゃあ公平にじゃんけんしようか。四人くらいならすぐ勝敗つくでしょ」
「縁さんは最後に飲むんでしたっけ」


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