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コント・ド・フェ。東宮最大の遊園地にして、その名前を知らない人物はこの現代にはいないだろうと断言できるほどの知名度を持ち合わせた子供に夢を与えるテーマパーク。
その管理人は何を隠そう、サンドリヨン頭領である灰音さんの実兄である幸田縁なのであるが、普段のちゃらちゃらした雰囲気からは想像のつかない真面目な態度で仕事をしているらしい。

「ついに来てしまったか……」
 
本日は十一月二十四日の土曜日。雲一つない晴天である。世間一般も休日だからだろうか、朝だと言うのに客の数は結構多い。そして予想通り、子供連れの家族かカップルがほとんどである。まあ女友達同士で来ていますと言わんばかりのグループもちらほら見られるが、やはり夢の国にお呼ばれされたい子供たちや、雰囲気に浸りたい男女がわんさかいる。
オープンは朝の九時。それなのにいまだ人気が衰えることを知らないこの遊園地は、開園前にも関わらずテンション高めな人たちの列で埋もれていた。

「勘弁してくださいよ・・・・・・、ここってこんなに人多かったですっけ」
「あれ、海音寺くんってコント・ド・フェ行ったことあるんだっけ?」
「いや、イメージと違っただけです。俺が想像していたビジョンが生ぬるかった」

実際は何度も行ったことがあるのだが、それは割愛。何食わぬ顔で、何もなかったかのように灰音さんは俺に語りかける。

「前日は楽しみだったけどぐっすり寝てきたから、今日は全力で楽しまなくちゃね! ほら、せっかくプライベートで来るんだからはしゃがなきゃ損じゃない?」
「前日までほぼ音沙汰なかった人がよく言いますよね」
「そ、それはそれ、これはこれ。こうして無事にアンタと一緒にいるんだからいいじゃないの、過ぎたことは」

過ぎたこと。
皆様は、前回俺が出くわした事態を覚えているだろうか。そう、灰音さんはあの天狐(タイミングを選ばせないとは言え、タイムトリップが出来る能力と、類まれなる常人では余程の鍛錬を積まないと得られないであろう、ずば抜けた身体能力を俺に授けたあの狐神)と一緒に斉狐神社にいたのだ。最初灰音さんが電話をかけてきた時は安堵したものの、後に天狐の声が電話越しに聞こえてきたのだ、色んな意味でヒヤッとした。そりゃそうだ、普段天狐はそうやすやすと人間の前に姿を現すことはない。意図して姿を見せないのだ。


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