その彼(性別が合ってるのか、もはや性別があるのか不明)が俺の電話越しとは言え、こうして自分の存在をアピールしてきたことに関して、俺は一種の不安を覚えた。その時俺の隣には、天狐の生き写しのような男が立っていたのだから、余計に背筋が凍った。この場合、縁さんには何の責任も失態もないのだが、いわゆる相乗効果というやつだろうか。
その後縁さんからの『誰からかかってきたの? 反応を見るに灰音と他に誰かいるみたいだったけれど』と見透かしたような台詞を言うもんだから、さすがに俺の表情も強張った。

『大丈夫、です。俺の友人のところにいただけでした』

それから縁さんは何かを察したのか、それ以上追及することはなかった。あの神を友人だなんて罰が当たりそうだし、そもそも反吐が出そうな部分はあるが、頭の回らないその現状でよくここまで話せたものだと逆に自分を褒めたいくらいだ。
 
その後、厳密にはコント・ド・フェに行く前日の昼下がりに、灰音さんは何食わぬ顔で帰ってきた。
勿論俺は彼女に質問攻めをした。いつから斉狐にいたのか、天狐に何かされてないか、もしされたとしたら何をされたのか、俺のことについて何か言ってなかったか、その他何か気になることはあったのか。親のように灰音さんに言葉をまくし立ててみるものの、俺が期待したような言葉は何一つ返ってこなかった。

『大丈夫よ、海音寺くん。私は特に何もされてないから』

それの一点張りだった。絶対何かを隠している。だがその隠している内容までは想像の範囲を出なかったので、これ以上灰音さんに言い寄ることは難しかった。
今もそれが、俺の心の中に棘として残っている。今後の事件に何かしら関わってきそうな、タイムトリップする際の分岐点のような、そんな気がする。これは長年の勘。この場合は長年と言うより別次元の勘か。
でも俺は、その確信を未だ掴めずにいる。


話の時空列を現代に戻そう。
今、俺と灰音さんはコント・ド・フェに遊びに来ている。灰音さんが失踪する前に交わしたあの約束を今実行しているわけだが、灰音さんは天狐と会うことを見越してこの日付を選んだのだろうか。

『来週はね、ちょっと予定があるの。仕事も入ってるけど、ちょっとやりたいこともあって』

「・・・・・・まさかね」
「ん? どうかしたの海音寺くん」
「いえ、別に。気にしないでください」
「ふうん・・・・・・?」
「雫兄! ハイネさんもいいけど私のこともかまって! せっかく久しぶりに会ったんだから!」

俺の隣で腕を引っ張るのは妹の紬だ。


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