国立東宮図書館。それがここの正式名称である。東宮に存在している図書館の中で、というより日本に存在している図書館の中で最大規模の図書館であり、蔵書数はダントツで日本一。電子機器もたくさん揃っており建物自体は広いうえに五階建て。もはや会社のようだ。
ここの館長は同業者の父親である太宰浩太郎(ダザイ コウタロウ)。何代目かは忘れてしまったが、おおらかな人物像の人気のある館長だ。私はここの図書館に居候させてもらっているが、それもこの館長が私のことを何かと気にしてくれているからだ。別に私は孤児でもなければ親と絶縁しているわけでもないしこじれたこともないが館長は自分の息子のように私のことを見ているようで、私もその期待には応えるようにしている。
そして私に突っかかってきた同業者、太宰翠澄(ダザイ スズミ)。彼女は館長の一人娘でありどこか抜けている父親の補佐をしているらしい。父親に気に入られているのが気に食わないのか、私の失態を見つけようとして私に指摘してくる。別に嫌いなタイプではないが(論破したらすぐ折れるし)、特別好きなわけでもない。

図書館のサイトを少し弄って作業を終えると、印刷した宣伝用の張り紙を館長の部屋にどっさり積み上げて書き置きと一緒に目に入るところに主張させておいた。

「さて、一仕事終えたので私は眠りにつきますね」
「本当にやりたい放題なんだからこの人……」
「楽しみでしょう、これから貴女は語り手になるんです。いや、その前にまずは私の語りを聞いてもらう聞き手になってもらわなきゃいけませんかね」
「……面倒なことに巻き込まないでくださいよ」
「私の気が向いたら」
「何ですそれ」

これから私と彼女は結局、語り手どころか聞き手にもなれない、ただの重要な登場人物になってしまうのであったが、それはまた別の話。

これから始まるのは、終わりの始まり。
終わるはずのなかった物語は終わり、限りの無い物語が幕を開ける。

なんて、私の柄にも合わないことを呟いてみたりして。


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