「なっ……、そ、そう思うならアンタたち部屋の外に出なさい!バカ!」

そう言いながら頭領は恥じらった顔のまま、勢いよく自室の扉を閉めた。
……締め出しを食らった。


「君ってばいつもああなのかい?」

余程前の俺の行動が意外で面白かったのか、縁さんはずっと肩を震わせ笑っている。と言っても、彼は笑っている時の方が多いし、悲しんだ顔や怒った顔を見たことはないのだが。

「……いや、今回はちょっと欲情しただけです」
「ちょっとって。君、案外ユーモアあるんだね、見直したよ。てっきり杓子定規で頑固一徹で融通の利かない、つまらない真面目な男とばかり思っていたから。いやあ、これは一本取られたなあ」

参った、とばかりに頭に手を当て笑う縁さん。本当に面白いと思っているのか、俺には察しがつかなかったが、まあいつものリアクションと違うのできっと普段とは違う感情であることは確かだった。

「君の態度に免じて、本当のことを言ってあげよう。僕はね、君のことが大好きで仕方がないんだよ」
「……え?」
「お、君も驚いたりするんだね。感情が無い、という訳ではないのか。さっき灰音に欲情したって言ってたからね、性欲はあるみたいだし。無いと言うよりは感情を隠している、と言ったところかな」
「……」
「その辺についてはだんまりなんだ。まあ、勝手にそうだと解釈しておくことにするよ」

その解釈は決して間違ってはいなかった。ただ、図星をつかれたとも思わなかった。感情を隠していることは仕事柄そうなっただけで、殺しをやってる最中に私情を持ちこんでしまったら、仕事にならないからこうやって感情を殺しているのである。だから、何故感情を殺しているのか、と問われても痛くも痒くもなかったのだが、彼はそこまで俺の事情に踏み入ろうとはしてこなかった。
その辺りは、何気に紳士的なのかもしれない。

「詳しくは追及しないけどね。君の都合もあるだろうし、君が灰音と結婚しない限り、僕には関係のない話だから。頑張ってね、海音寺君」
「……あの、大好きだって言う理由は」


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