「正しくはナルシシストですね。ナルキッソスが水面に映る自分に恋をしたのが語源だと言われています。私の場合は特に自分の顔を気に入っていることもありませんしそもそも自分が好きなわけでもないのでその定義には反するかと」
「屁理屈はいいから! じゃあ自分を完璧人間と思ってるタイプですね……もうやだ……」

数十年前に話題になったらしい伝説の『眠り姫の導き』さんと同じようなことを言うんですね、と呆れる彼女に私は少しだけ眉をひそめた。

『眠り姫の導き』。
とある書物には「人間が持つ『もの』を導くことのできる者」と書かれている。他の書物には「神の力を受け継ぐもの」、「人成らざる人」、「すべてを知っている者」とも。
今となってはおとぎ話の類だと世間では認知されているが、どうやら『眠り姫の導き』は存在しているらしい。何でも人間ではありえない紫色の瞳を持つ者が目印だとか。確かに私は生まれてからというもの紫の瞳を持つ人間とは会ったことがないので信憑性はまだある方だろう。
彼女が言っている「伝説の『眠り姫の導き』さん」というのは私達が小さい頃に世界の救世主として東宮に存在した人間のことを指す。
「人間臭い人外のようであり、人外臭い人間のようでもある。己を信じ、人間を信じ、己に嘘を吐き、人間に嘘を吐く。彼はこう言った、『自分が大好きな世界を終わらせてたまるものか。自分を好きになれ。他人を好きになれ。そうすれば世界が大好きになる。だから俺はこの世界が好きだ。だからこの世界を殺させはしない。世界が死にたがっていても俺が生かす』。」
最初私がその一文を読んだ時も、何という完璧主義者で何という自己中心的な考えで何という自己陶酔の激しい輩だと思ったものだ。この話は童話にも書かれており、生きる伝説と言うか語られるべき物語のように東宮では有名になっているのであった。
でも眠り姫の導きを憎む人は現れなかった。どこか彼には人間を魅了する何かを持っているようにも思えたし、今では彼の存在を知らない者はいない。
ただ問題は、その姿を知っている人がほぼいないということである。特に私達の世代は一昔前の話であるから有名でありその名前の知名度さえあれども実際に見たものなど居はしない。

「『眠り姫の導き』、今でもいるらしいですよ」
「え?」
「おとぎ話と言われていますが私はそういう都市伝説にも興味がありましてね」
「……知ってますよ、というか都市伝説みたいな不思議なアブナイ話の方に興味があるんでしょ、そっちが本命でしょ」
「よくご存じで。せっかくだから会いに行ってみませんか?」
「……会いに行く?」
「私が聞いたところによると今の『眠り姫の導き』、昔伝説になっている人の子供だそうです。

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