彼女がシンデレラを好きなのは、態度を見れば分かることだ。彼女が普段しているイヤリングは、母親の形見らしいが、ガラスの靴にリボンがついたデザインになっている。まさにシンデレラをモチーフにして作られたものだと言っていいだろう。
俺は何となくシンデレラの冊子を手に取り、ぱらぱらとページをめくる。子供用に描き下ろされたそのイラストは、乙女の印象に残ったことだろう。彼女が元々持っているものとは少しデザインが違うが、せっかく自分の組織の頭領がそこまで気に入っているというのなら、買ってもいいだろうと考えてその場の気分で購入したものだった。絵本だから、何度も読むことは無かったが、時々思い出しては、こうして感傷に浸ることはある。

―――もし自分が、彼女を救う王子になることが出来たなら。
―――その日が来たら、俺はきっと生きる意味を失ってしまう。
―――……否、傲慢な彼女がきっと、俺に生きる意味と価値を与えてくれることだろう。彼女はそういう人間だから。

俺はそれが可笑しくてたまらなくて、一人で笑いをこらえていた。
本を戻して、俺は思い出したように質素なキッチンに向かう。別に何かを食べるわけでは無い、ただ、彼女から貰ったダージリンを飲んでおこうと思ったのだ。三大紅茶の一つであるダージリンの中でも、結構高価なものらしく、その細かく上品にデザインされたティーパックをぼんやりと眺める。
俺はそもそも飲み物に拘りがないため、基本的に飲めない飲み物こそないものの、何を貰っても嬉しいということがない。紅茶も漏れず、コーヒーでも俺の対応は変わらない。頭領はコーヒーより断然紅茶派だ。おそらくコーヒーは苦いからであろう。
シンプルなデザインのカップに注がれたダージリンは、紅茶の中でも特に香りを楽しむ種類であるから、俺の鼻をすぐにツンと付いて来た。確か彼女がストレートで飲むと良いと勧めてくれたから、その言葉を信じてストレートで飲むことにしよう。
優雅にティータイムをする性分でもないのだが、これを飲み終わった頃にはきっと目の腫れも引いているだろう。この暖かい湯気が、自分の体温を上げてくれている気がする。この時期は外も冷えているから、紅茶を飲むにはぴったりだろう。せっかく紅茶を飲むのなら、先程買ったドーナツを……

「あ」


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